島弧地殻の変形様式と内陸地震

概要

 東北地方脊梁部における高密度総合観測データの解析により、「地震発生域の下部はまわりより軟らかくなっており、これによって浅部に応力が集中して大地震発生に至る」とするモデルを構築しました。さらに「プレート沈み込みに伴って、上部マントルで部分的に岩石が溶けてマグマとなり、そのマグマが脊梁下のモホ面直下に達して地殻下部の温度を上昇させ、またマグマの固結に伴って水が放出される。この高温と水の存在によって地震発生域下部が軟らかくなる」ことを詳細な観測研究から明らかにしました。
 これまで、何故、内陸の特定の領域に活断層が発達し大地震に至るのかは重大な問題でしたが、東北大が提示したモデルはこの謎に答えを与えるものです。M6程度の地震が発生する領域では、活断層が見あたらないか不明瞭なことが多いですが、このモデルが正しければ、M6の地震を発生させる危険性がある領域を構造探査から特定できる可能性があることになります。

GPSで推定された脊梁山地での歪集中

 1997年~2001年の国土地理院および東北大学のGPS連続観測から計算された東北地方の東西歪分布を右図に示します。色つきの等高線で示された領域のうち、青い領域ではこの時期に東西に縮み、赤い領域では伸びたことを示します。中央部を走る脊梁山脈に沿って短縮歪(青い領域)が帯状に集中しており、これを「歪集中帯」と呼びます。一方、赤の点は浅発地震の震央を示しており、歪集中帯に沿って微小地震活動も活発になっていることがわかります。

地震波トモグラフィで見える火山フロント下への水の供給

 地震波トモグラフィによって推定された、深さ40kmにおける地震波の縦波と横波の速度比(Vp/Vs)を右図に示します。脊梁山脈の火山列沿いにVp/Vsが大きくなっていますが、これはマントルウェッジ内の上昇流がモホ面近傍に達しているためと考えられます(「沈み込み帯の構造とマグマ生成・上昇」の項をご覧ください)。 この火山フロント沿いでは上でみたように歪集中帯となっています。 上昇流中に含まれていたマグマは、いずれ地殻の底に張り付くか、あるいは地殻の中に貫入してきてまわりの岩石を加熱します。マグマが冷えて固まると水がはきだされるため、周りの岩石は温度が高いだけでなく水を豊富に含んでいると予想されます。高温の岩石は低温の場合より軟らかいですが、中に水が入るとさらに軟らかくなることが知られていますので、プレート運動に起因する圧縮応力場のもとで、このような領域は局所的に縮むことが期待されます。

地殻浅部の変形と内陸地震の発生

 脊梁山脈(挿入図AB断面)に沿ったVp/Vs(地震波の縦波と横波の速度比)構造を右図に示します。赤系統の色は高いVp/Vs比、青系統の色は低いVp/Vs比を表します。 赤い丸は低周波地震(放出する地震波の卓越周期が極端に長い地震)の震源、黒い点は浅発地震の震源、赤い線はS波反射面(地震波の横波を効率良く反射する面)、赤い三角は活火山を示します。北と南にある二つの火山地域の直下には、部分的に岩石が溶けていると推定される高Vp/Vs比領域が分布し、それらは地殻中部まで達しています。すなわち、この二つの地域では、マントルウェッジから供給される水の量が、その間の領域よりも多いと考えられます。

内陸地震の発生メカニズム

 東北日本における島弧地殻の変形様式の模式図を右図に示します。上側の図は東西断面です。マグマが冷えて固まる際に離脱した水は上昇し、下部地殻ばかりでなく、上部地殻の塑性変形の原因ともなります。 すなわち、下部地殻にマグマや水が分布する脊梁山脈では地震発生層が局所的に薄く、その外側と比べて、地殻全体が軟らかくなっていて強度が局所的に小さくなっていると期待されます。 そのため、プレート相対運動方向に圧縮されている島弧地殻は、脊梁山脈に沿っては上部地殻でも部分的に非弾性変形が生じ、それにより局所的に短縮して隆起することが期待されます。下側の図は上から見た様子を示します。島弧に沿って脊梁山脈下の軟らかさの度合いが異なっていて、火山の下のように軟らかいところでは、他より早く東西に縮むことが期待されます。そして、軟らかい領域に挟まれた部分に応力が集中し、短縮変形の遅れを取り戻すべく、この部分の端で逆断層型の地震が発生することになります。

2003年宮城県北部地震(M6.4)の余震分布

 2003年宮城県北部地震(M6.4)の余震分布を右図に示します。地震発生直後に震源域周辺に設置した臨時地震観測点のデータを利用して震源を精度良く推定することに成功しました。左側の図は震央分布を示し、色は震源の深さを、また破線は震源の等深度線を示します。太線は震源域周辺に分布する地質構造線(旭山褶曲および石巻湾断層)を表します。右側の図は震源域北部における余震分布の鉛直断面を示していて、■印は地質構造線の地表での位置を示します。この余震分布から、2003年宮城県北部地震は、北部では西方向に、南部では北西方向に傾斜した断層に沿って発生したと推定されます。