沈み込み帯の構造とマグマ生成・上昇

概要

 医学におけるX線CTのように、自然地震のデータを用いて、地球内部の地震波速度構造を3次元的に推定することが出来ます。これを地震波速度トモグラフィと呼びます。東北日本弧下の地震波速度トモグラフィにより、
 1) マントルウェッジ(沈み込んだプレートとその上のモホ面に挟まれたクサビ状の部分)には、沈み込んだプレートにほぼ平行な低速度域が連続的に存在していて、これはプレートの沈み込みによって誘発された二次対流の上昇流部分と考えられること、
 2) その低速度域内では最大で数%の体積が部分的に溶けていること、
 3) 第四紀(約200万年前以降)の火山および地形の高まりはマントルウェッジの低速度域の度合いが特に大きい領域の直上に分布すること
などを明らかにしました。この観測事実は、マグマは多くの教科書に描かれているように火山直下のプレート境界付近からまっすぐ上昇するのではなく、マントルウェッジの斜めの上昇流に沿って地殻まで運ばれることを示しています。この上昇流こそが島弧マグマ生成・上昇の本質的な要因であると考えられます。

地震波トモグラフィで写し出された東北日本下の構造

 右図は地震波速度トモグラフィによって得られたS波(横波)速度構造の、鳥海山や栗駒山付近を通る鉛直断面です。青色は高速(低温、高密度)部、赤・黄色は低速 (高温、低密度)部を表します。○は地震の震源では活火山です。東北地方の陸域下に沈み込む太平洋プレートの姿が、青色の帯として明瞭に写し出されています。マントルウェッジには、明瞭な低速度域が、沈み込むプレートにほぼ並行に存在しています。この低速度域は、マントル深部からの上昇流に対応し、島弧マグマ活動と密接に関係していると考えられています。赤丸は、深部マグマ活動に起因する低周波微小地震(非常に卓越周期の長い波形を持つ特殊な地震)です。

マントルウェッジ内の低速度層と地形

 上記では東北日本弧を東西に横断する断面を示しましたが、マントルウェッジに存在する低速度域は島弧に沿った方向にも不均質であることが明らかになりました。右図の左側は、マントルウェッジ内で西に傾いて存在する低速度域の中心に沿って斜めに切り取った断面での相対的な地震波速度の大きさを示しています。赤三角は第四紀の火山を表します。右側の図は地形と活断層の位置を示しています。 左側の図の低速度域(赤い部分)と右側の図の標高の高い領域とが空間的によい一致を示すことがわかります。マントルウェッジ内の低速度域と地表の火山分布や標高分布が対応するということは、マントルウェッジ内の高温の上昇流が島弧火山の形成に重要な役割を果たしていることを示唆しています。

東北日本弧におけるマグマ生成・上昇モデル

 上記の解析結果から構築された東北日本弧におけるマグマ生成・上昇モデルの概念図を右図に示します。マントルウェッジ内には高温の上昇流が存在し、それは島弧に沿った方向に連続的に分布しています。上昇流内にはマグマが生成されますが、 その一部は上昇流から分離して上昇し、背弧側の火山を形成します。一方、上昇流とともにモホ面直下まで斜めに上昇してきた大部分のマグマは、地殻内にまで至り、脊梁山脈に沿った火山列を形成します。