概要

 地震や火山噴火現象は地球内部の活動の地表への現れであり,地球内部における物質循環の中で重要な役割を担っているものの一つが,マントル下降流部分に当たる「プレートの沈み込み帯」です。東北日本は,西(日本海)側からユーラシアプレートが,東側の日本海溝から太平洋プレートが,その下に沈み込む典型的なプレートの沈み込み帯に位置しています。このため,東北日本では地震や火山の活動が極めて活発で,過去に繰り返し地震や火山噴火による災害を受けてきました。一方で,プレートの沈み込みダイナミクスを理解する上で,東北日本はグローバルにみても大変貴重な研究フィールドでもあります。
 本地震・噴火予知研究観測センターは,このような地学的背景にある東北日本を主な対象として,地震・噴火予知の基礎的研究を推進してきました。すなわち,地震予知や火山噴火予知のためには,島弧における地震や火山噴火の原因であるプレートの沈み込み過程と,それに伴って発生する地震や火山現象そのものをより深く理解することが必須であるという認識のもとに,観測的研究を主体にしつつも実験的・理論的研究と有機的に連携させ,総合的に研究を進めてきました。その結果,プレートの沈み込み過程を理解する上で重要な貢献となる多くの研究成果をあげてきました。さらに,その理解に基いて,プレート境界地震や内陸地震の発生過程のモデル化,島弧火山の深部構造の解明など,地震予知・火山噴火予知研究をする上で重要な貢献となる研究成果をあげてきました。
 本センターとしては,グローバルにみて貴重な研究フィールドである東北日本の特性を活用し効果的に進めてきたこれまでの研究を,今後さらに飛躍的に発展させることにより,地震予知・噴火予知研究の進展に貢献したいと考えています。空間的にも時間的にもゆらいでいるプレート運動が,陸域の地震を引き起こす応力場のゆらぎを支配していることから,プレート運動の時空間ゆらぎの把握は,海域でのプレート境界地震のみでなく,陸域の地震の発生予測にも不可欠です。今後,沈み込み帯の陸と海を含めた全域をカバーする観測データに基づいて,プレート沈み込み帯の地震・火山テクトニクス,プレートの沈み込みダイナミクスのより深い理解を目指します。さらに,地球内部の水・マグマ等の流体の性質と挙動の解明に基づいて,噴火モデルの構築と噴火予知の定量化に貢献するとともに,地震活動を含む地殻活動全般に及ぼす地球流体の役割を解明します。これらを総合して,沈み込み帯における地殻活動総合予測モデルを構築して,地震予知,火山噴火予知に積極的に貢献したいと考えています。
 また,プレートの沈み込み過程のより深い理解のためには,他の沈み込み帯やマントル物質の上昇部分に当たるホットスポットも含めて,グローバルな視点に基づく研究の進展が不可欠です。本センターでは,このような認識のもとに,これまで太平洋をとりまくアラスカ・南米などのプレート沈み込み帯やコンゴ民主共和国東アフリカ地溝帯ホットスポット火山などにおいて,国際共同研究を実施してきました。このような国際共同研究をもさらに発展させることにより,プレート沈み込み帯の地震・火山テクトニクス,プレートの沈み込みダイナミクスの研究に貢献したいと考えています。そのため,将来的にはプレート沈み込み帯の総合的研究の国際的な中核研究拠点となることを目指しています。


1975年5月〜1998年10月の期間に発生した浅発微小地震の震央分布。地形データは国土地理院および海上保安庁海洋情報部による。