東北地方の火山

分布

 東北地方には18の活火山(地図中の▲)があります。東北地方の火山は関東や九州の火山と比較して、目立った活動が長期間にわたって見られない(静穏期が長い)為に、『火山の近くに住んでいても火山だと認識していなかった』り、『もう噴火しないと思っている』人も多いかもしれません。また、観光地になっている為、『噴火するなんて考えたくもない』といった人もいるかもしれません。しかし、歴史をひも解けば、有史以降における日本で最も大規模な噴火は、十世紀の十和田火山の噴火であると言われていますし、1888年の磐梯山の噴火(水蒸気爆発)では、山体が崩壊し、檜原湖等の裏磐梯の湖沼群を形成する等、大規模な活動が起こっています。今現在、表面上活動が見られないからといって、将来にわたって噴火しないとは決して言えないのです。東北地方の活火山には、磐梯山の他にも山体崩壊を繰り返し起こした火山が多く、ひとたび大規模な活動が起これば、被害は甚大なものとなります。自然地震を用いたトモグラフィーでは、マントルウェッジ中に火山フロントに向かって、高温で部分溶融している上昇流と解釈出来る低速度域がイメージングされています。

概説

恐山

 流紋岩・デイサイト・安山岩からなる二重式火山(SiO2 53~68%)。直径3kmのカルデラ内にある宇曽利山湖(恐山湖)のほとりには噴気孔や温泉が多い。外輪山上には多数の溶岩円頂丘が寄生している。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

岩木山

 安山岩(SiO2 56~64%)の成層火山。主成層火山は緩傾斜の裾野と急峻な山体上部とからなる。 頂上部に直径800mの破壊された火口があり、それを埋めて現在の岩木山山頂など2個の溶岩円頂丘を生じた。西・南麓に3個の寄生火山があり、山頂部や山腹斜面に多数の爆発火口がある。山頂北東側の赤倉沢の馬蹄形火口は大規模な山体崩壊の跡で、北東山麓の岩屑なだれ堆積物には多数の流れ山地形がある。 有史後の噴火は水蒸気爆発。泥流を生じやすい。北東約10kmの一帯でしばしば地震群発。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

八甲田山

 18の成層火山や溶岩円頂丘からなり、南北2群に分かれ、概して北群の方が南群より新しい。 南群の諸火山は安山岩~流紋岩、北群の諸火山は玄武岩~安山岩である。最高峰の大岳などには活発な硫気孔がある。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

十和田

 二重のカルデラと後カルデラ溶岩円頂丘とからなる。 付近に数個の独立した安山岩の小型火山が生じた後、25,000年前と13,000年前に大量の火砕流を流出して、直径11kmの第1カルデラが形成された。その直後からカルデラ内南部に小型の安山岩火山(五色岩火山)が生じ、5,000年前頃まで、数回の軽石噴火を行い、山頂部に直径3kmの第2カルデラを生じた(現在2つの半島に囲まれている中湖)。 デイサイトの後カルデラ溶岩円頂丘(御倉山と湖上の御門石)があり、御倉山は約1,000年前の軽石噴火に引き続いて形成された。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

秋田焼山

 直径約7km、比高約700m、緩傾斜(15°以下)の山体からなる小型の成層火山。主に安山岩(SiO2 58%)の主山体頂部に直径600mの山頂火口(外輪山)があり、焼山山頂はその南西縁。2個のデイサイトの溶岩円頂丘が火口底の中央火口丘鬼ヶ城(SiO2 71%)と火口南東縁にある。 主山体東側に側火山栂森があり、その中央火口丘国見台から東に溶岩が流出している。主山体南側にも側火山黒石森がある。焼山山頂付近は硫気変質が著しく、山頂火口や山麓に多くの温泉がある。 西麓の玉川温泉は強酸性で、北投石(鉛を含む重晶石)の沈澱が有名。有史以後の噴火は鬼ヶ城や北面の爆発火口、空沼からの泥流流出などがある。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

八幡平

 主に安山岩(SiO2 53~69%)の成層火山群で、頂部は高原状。火口湖・八幡沼などの小湖沼に富み、硫気孔・温泉・泥火山が特に多く、硫黄の採掘(松尾鉱山)が行われたことがある。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

岩手山

 玄武岩~安山岩(SiO2 50~60%)の西岩手(三重式)・東岩手(二重式)の2成層火山が結合。 東岩手山の方が新しく、外輪山頂火口縁の薬師岳は本火山群の最高峰である。直径500mのこの火口内にある中央火口丘・妙高岳の火口(直径150m)の底部では硫気活動が盛んである。有史後の噴火は、西岩手山大地獄(現在も硫気活動活発)での小爆発1回のほかは、すべて東岩手山である。爆発型噴火が特徴であるが、溶岩を流出したこともある(17、18世紀)。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

秋田駒ヶ岳

 玄武岩~安山岩(SiO2 49~59%)の二重式成層火山。 山頂部北東側の北部カルデラ(1.2km×1km)と南西側の南部カルデラ(3km×2km)が相接しており、カルデラ形成期の火砕流・降下火砕物 が山麓や火山東方に分布する。北部カルデラは女目岳(最高峰)などの火砕丘や溶岩にほとんど埋積されており、カルデラ北縁から北西方に溶岩が流下している。男岳は北部・南部両カルデラの接合部西縁上の峰。南部カルデラには女岳・小岳・南岳火砕丘があり、それらからの溶岩流がカルデラ底を覆い、カルデラ南西縁から溶岩が西方に流下している。今世紀初頭までは北部カルデラ内の硫黄沈澱物から硫気の上昇が認められていた。また、山麓には温泉が多くみられる。有史以後、水蒸気爆発しか知られていなかったが、1970年~1971年の噴火では溶岩流を流出し、小爆発をしきりに反復した。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

鳥海山

 玄武岩~安山岩(SiO2 51~62%)の巨大な二重式成層火山。基底の直径は、東西21km、南北21km。 地形的にはなだらかで侵食が進んだ西鳥海山とやや急峻で新しい溶岩地形をもつ東鳥海山に二分され、それぞれの山頂部に山体崩壊によって生じた馬蹄形カルデラがある。活動史は大きく3期に区分される。第1期はこの火山の主体を形成した時期、第2期は溶岩が西鳥海山の表面を覆った時期、第3期は山体東部に円錐形の東鳥海山が形成された時期(西山腹猿穴火口からの溶岩流を含む)。約2,600年前、東鳥海山の山頂部が崩壊して岩屑なだれが北から北西に流下し、北に開く馬蹄形カルデラが生じた。象潟、由利原の多数の流れ山はこの堆積物の地形。同カルデラ形成後、カルデラ内山頂部付近の活動が続き、溶岩流がカルデラの約1/3を埋積した。東鳥海山の2つの中央火口丘のうち、新山(別名、享和岳)は、1801年の噴火で生じた溶岩円頂丘。有史後の活動は、1801年の噴火以外は火山灰の放出であった。泥流を生じやすい。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

栗駒山

 安山岩の二重式火山。外輪山は成層火山で、南側だけが残存し、その東端が最高峰の大日岳 (SiO2 55%)である。 中央火口丘の剣山は平坦で溶岩円頂丘で硫気活動が盛んである。有史以後の活動は、爆発火口内での噴火、泥土噴出など。周辺では地震活動が活発である。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

鳴子

 デイサイト(SiO2 70~75%)の4つの溶岩円頂丘が一群をなし、それらに囲まれた酸性の火口湖・潟沼(直径400m)の内外やその西側の溶岩円頂丘(海抜396m)の壁では硫気活動が盛んである。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

肘折

 肘折(銅山川軽石流;杉村,1953)は、山形県最上郡大蔵村、山形県尾花沢市の西約20km、月山の北東約15km、鳴子の西南西約50kmに位置する。肘折を構成する地形は、北緯38度36.5分、東経140度10.3分を中心とする、内径約2km外径約3km比高マイナス約0.2kmのカルデラであり、火砕流台地がその南方数kmと北方約8kmにかけて分布している。宮城(2002)、宇井・他(1973)、福岡・木越(1971)による肘折の活動年代値から、おおよそ1万年程度前に活動があったと考えられる。 現在、噴気活動はないが、地熱活動が継続している。カルデラの東端と中央部に温泉があり、中央部の湖成層が著しい温泉変質を受けている。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

蔵王山

 玄武岩~安山岩(SiO2 49~64%)の成層火山群で、山体の上部を形成する熊野岳(最高峰)・刈田岳などが噴出した後、山頂部に直径2km程度のカルデラが生じた。五色岳はその中に生じた後カルデラ火砕丘で、火口湖御釜(直径360m、別名五色沼)をもつ。有史後もしきりに活動をしてきたが、被害を伴った噴火は御釜の内外で発生。泥流を生じやすい。数地域に噴気孔。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

吾妻山

 玄武岩~安山岩(SiO2 52~59%)の多数の成層火山からなり、これらの火山は東南東~西北西に走る南北の2列に大別される。全体として南列より北列が新しく、それぞれの列では西より東が新しい。北列の多くの火山は山頂火口をもち、特に東部の一切経山付近には、五色沼、大穴、桶沼、吾妻小富士など多くの新しい火砕丘・火口がある。 南列の火山は侵食が進んでいる。 有史後の噴火は、北側火山列の一切経山(1,949m、成層火山)の爆発で、現在その南~東斜面には硫気地域が広く分布する。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

安達太良山

 玄武岩~安山岩(SiO2 52~62%)の成層火山群で、東西9km、南北14kmにわたる。 これらの火山は、北から箕輪山、鉄山・安達太良山(本峰)、和尚山の3群に分けられる。主峰の安達太良本峰(1,700m)などの山頂部は溶岩円頂丘や西に開く沼ノ平火口(直径 1.2km、深さ 150m)がある。明確な記録のある噴火活動は、沼ノ平火口での明治以後の活動に限られる。この火口の内外には、硫気・温泉地帯が諸所に存在する。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

磐梯山

 安山岩(SiO2 58~64%)の成層火山。赤埴山・櫛ヶ峰・大磐梯・小磐梯などの火山が、現在の中心地域から噴出、円錐形火山体の形成と崩壊とが繰り返されて現在の山容がつくられた。1888年の山体崩壊は著名であるが、この他にも南西方の翁島・頭無し、東方の沼の平・琵琶沢等に山体形成途中の岩屑なだれ堆積物があり、火山体にそれらに対応する崩壊壁がある。1888年に水蒸気爆発により小磐梯山の山頂を含む北側が崩壊し、その際発生した岩屑なだれで大被害を生じた。山頂部北側の馬蹄形カルデラ壁、北麓裏磐梯高原の流れ山、桧原湖など大小の湖沼がこの活動で生じた地形。 有史後の噴火はすべて水蒸気爆発で泥流を生じやすい。前記カルデラ壁や山頂部には微弱な硫気孔が点在する。カルデラ壁の崩壊や山崩れもときどき起こっている。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

沼沢

 沼沢は、福島県西部、会津盆地の南西山地にあるデイサイト質の小型のカルデラ火山である。中央には径2kmの沼沢湖カルデラがあり、その周囲に惣山、前山の溶岩ドーム、火砕流台地が分布する。沼沢の形成は約11万年前のプリニー式噴火に始まり、数万年間隔でプリニー式噴火とデイサイト溶岩ドームの形成を繰り返している。最後の噴火は約5千年前の沼沢湖火砕物の噴火で、この時に沼沢湖カルデラが形成された。この噴火では数kmのデイサイト(一部安山岩)マグマを噴出し、その大半が火砕流として定置した。この火砕流は広い爆風被災域を持つ流動性の大きなもので、いくつかの地形的障害を乗り越え20km以上流走し、会津盆地内に達している。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)

燧ヶ岳

 福島・群馬・新潟県境にある尾瀬ヶ原の北東の福島県南西隅に位置する基底8×6km、海抜2,346m、比高約700mのほぼ円錐形の複成火山で、山頂に直径約800mの火口を有する。花崗岩と古生層を基盤とし、安山岩からデイサイト質の溶岩流、溶岩円頂丘及び火砕流堆積物から構成される。北西麓に向かい規模のやや大きな火砕流が流出している。過去には火砕流噴火や山体崩壊が繰り返し起きているが、明確な活動記録はない。初期の噴出物は輝石安山岩、後期の山頂部溶岩及び火砕流は主に輝石デイサイトである。本火山の噴出により、西麓の古檜枝岐川や只見川が堰き止められて尾瀬ヶ原湿原や尾瀬沼が形成された。
(気象庁編:日本活火山総覧(第2版)、1991;近年の火山観測の成果より)