2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震(M9.0)

2011年3月11日14時46分に,東北地方から関東地方にかけての太平洋側でMj9.0の巨大地震が発生し、未曾有の人的および物的被害が発生しました。困難を極める被災現場での救助作業や復旧作業が進むにつれて、我々が今までに経験したことのない甚大な被害の全貌が明らかになりました。今回の地震で被害に遭われた皆様方に心からお見舞い申し上げます。[2011/4/3]

東北地方太平洋沖地震の研究成果

地震観測点の状況[2011/4/3 現在]

東北大学地震・噴火予知研究観測センターが東北地方に設置している地震観測点は,国の基盤地震観測網の準基盤観測点(図の大きい丸印)として,気象庁が行っている日本列島の 地震活動の監視業務に貢献をしてきました。ところが,今回の地震により観測点のいくつかでは地震の影響により地震波形記録が伝送されてこない状況になりました。その原因は、観測機器故障,停電,電話回線故障など様々であることが想定されましたので、当センターでは本震発生直後から、観測データが入手できない観測点の修復を最優先に実施してきました。その結果、ほとんどの観測点を復旧させることができました。現時点で、赤丸印は観測データが送信されている観測点、緑丸印は現地でデータロガーにより収録されている観測点を表しています。これらの観測データは準基盤観測点として気象庁に送信されています。今回の復旧作業においては、宮城県総務部危機対策課、株式会社NTTドコモ等の多大なご援助とご協力をいただきました。ここに記して心より感謝申し上げます。(文責:海野 作図:内田、中山)

高サンプリング キネマティックGPS解析により推定された地震時永久変位

東北大学青葉山観測所に設置されたGPS観測点で得られた1秒サンプリングデータを解析した結果を示します.解析にはRTKLIB Ver. 2.4.0 (Takasu, 2010), 衛星の軌道情報にはIGS速報暦を用いました.横軸は14時台の時間を分数で示しています.解析にあたっての固定点にはIGSのUSUD観測点を用いています.明瞭な地震時永久変位がどの成分にも47分以降に明瞭に現れています.特に東西成分では本震発生から1分程度経過後に4.06mの東向き変位を検出し、その後約2分後に2.4mの変位に収束するというプロセスを示しています.南北成分では南向きに約0.5mの変位,上下成分でも約0.09mの沈降が確認できます.最終的な永久変位への到達時間はおおよそ3分であり,断層の破壊継続時間とおおむね同じ程度と考えられます.(文責:太田)

本震と2011年3月9日の地震の余震域との位置関係

2011年3月11日15時1分までの東北地方の震源分布(東北大学自動処理による)。矩形領域の中心付近に本震震源が位置します。2011年3月11日の地震は,同年3月9日のM7.3の地震の余震域の南東から破壊がはじまったと考えられます。(文責:内田)

2011年3月9日三陸沖の地震(M7.3)の震源断層と東北地方太平洋沖地震の震央の関係

3月9日に発生した三陸沖地震 (M7.3)の震源断層と東北地方太平洋沖地震の震央を比較しました.3月9日の断層モデルをGEONET, 東北大学(図中赤丸印),JNES (原子力安全基盤機構)のGPSデータの日座標値解(水平成分)に基づいて推定しました(図中赤矩形).推定の際にはMatsu’ura and Hasegawa (1987) による非線形インバージョン手法を用いています.推定された震源断層は,再検測して再決定された3月9日の余震分布(図中黒丸, 3月9日22時までに発生した余震を表示)と相補的な関係にあることが分かります.計算されるモーメントマグニチュードは7.18 (剛性率: 40GPaを仮定)となりました.推定された断層モデルは観測値をおおむね良く説明します.推定された3月9日の震源断層の深部延長に東北地方太平洋沖地震の破壊の開始点 (USGSによるもの)が位置します.
推定された3月9日の地震の断層パラメータは以下の通りです.

Lon.(°) Lat. (°) Depth(km) Length(km) Width(km) Strike(°) Dip(°) Rake(°) Slip (m)
143.30 38.64 16.0 28.7 53.2 188.2 12.0 73.3 1.25

(文責:太田,飯沼,大園,三浦, 初期断層モデル作成:飯沼)

東北大+GEONETのGPS観測による地震時地殻変動

(2011年3月17日現在) 東北大学地震・噴火予知研究観測センターが設置しているGPS観測点および国土地理院のGEONETのGPSデータを解析して得られた地震時変位を示します.解析にはBernse GPS Software ver. 5.0 (Dach et al., 2007),衛星の軌道情報にはIGS速報暦を使用しました.左図は水平変位場で,黒はGEONET点,赤とピンクは東北大学の観測点によるものです.右図は上下変位場で,青または水色が沈降,赤が隆起を示します.地震時変位は,本震前日(3月10日)の日座標値と,本震があった3月11日の本震時以降の日座標値(赤,青)または3月12日(ピンク,水色)の差から求めました.最大変位量は水平成分で約5.3m,上下成分で約1.1mの沈降(いずれも0550牡鹿観測点)が見られます.今後,電源等の復旧により東北大学の観測点も徐々にデータが収集され,より詳細な地震時変動場が得られると考えられます.(文責:大園・三浦)

余震分布とプレート境界カップリング率の関係

気象庁による,地震後24時間の地震分布と,プレート境界でのカップリング率(固着率)の関係について示します。余震(黒丸)は,岩手県沖及び千葉県沖の比較的カップリング(固着)が弱い領域(赤線で示す,詳細は次項目参照)に挟まれた,領域で起きているように見えます。地震時すべり域もこの余震域に含まれていると考えられます。この関係は,プレート境界での地震的なすべりが、この2つのカップリングが弱い領域(=地震的なすべりを起こしにくい領域)で止まったことを示している可能性があります。なお緑枠の領域は1926年以降のM7以上の地震の余震域を示します。今回の地震の余震はこれらの複数のM7クラスの地震の余震域をまたいで発生しています。(文責:内田)

東北日本プレート境界のカップリング率の空間分布

東北日本プレート境界での定常すべり速度(図a)とカップリング率(固着率,図b)について示します。
定常すべりレートとカップリング率は反対の関係にあり,定常すべりレートが大きいところはカップリング率が小さく(カップリングが弱く),定常すべりレートが小さいところはカップリング率が大きい(カップリングが強い)関係にあります。カップリング率が大きいところで地震性すべりが起きやすいと考えられています。両図とも小繰り返し地震データから得られたもので,図(a)は,1997-2001年のすべりレート(内田D論),図(b)は1992-2007年のカップリング率(Uchida et al.,EPSL, 2009) を示します。図aのコンターはGPSデータによるすべり欠損レート(Suwa et al., JGR, 2006;値が大きいところほどカップリング率が大きい)を示します。岩手県沖や千葉県東方沖にカップリング率が小さい場所が存在します。
(文責:内田)

2011年東北地方太平洋沖地震前の震源域周辺での準静的すべり

小繰り返し地震の積算すべりにより,プレート境界の準静的すべりの時空間変化を推定しました。図の左上に解析期間(3年ごと)を示し,色はその間のすべり速度を示します。赤星は70km以浅のM7以上の地震,2つの矩形は国土地理院による本震断層モデル(http://www.gsi.go.jp/cais/topic110313-index.html)を示します。図中のコンターはYamanaka and Kikuchi,EPS, 2003, JGR, 2004による2003年十勝沖地震,1994年三陸はるか沖地震のすべり量分布を示します。黒太線はUchida et al., EPSL, 2009によるフィリピン海プレートの北東限を示します。なお,これより南のすべりレートは解析の都合上,暫定値となっています。震源断層のupdip(浅い側)で,海溝に沿って2008年以降それまで見られなかった速いすべり速度が見られます(右上図の赤楕円付近)。その南北の拡がりは,おおよそのすべり域と一致します。この地震前の海溝近傍での南北に広域での準静的地震的すべりの発生は,今回の巨大地震の発生と何らかのかかわりがあるのではないかと推測しています。なお,このような海溝近傍での地震前のすべりは,今回より小規模ですが,1994三陸はるか沖地震(M7.6)や1989年M7.1の地震でも見られました(Uchida et al., Tectonophysics, 2004).(文責:内田)

岩手県釜石沖の繰り返し地震の活動変化

岩手県釜石沖の地震クラスターでは,1957年以降、およそ5年間隔でM5前後の地震の発生が知られていましたが,今回の地震後,その地震クラスターでM4.5以上の地震が3回起きていたことが分かりました。左図は、気象庁の読み取り値に基づき,ダブル・ディファレンス法で決定した1994年以降の震源分布を示しており,赤色は2011年東北地方太平洋沖地震後の活動です。右図は,この地震クラスターでの1957年以降の地震のM-T図(地震の規模と発生時の関係,ただし1975年以前はM5前後の地震の系列のみ)を示します。今回発生した地震のうち2つは,本震の約1時間後及び,9日後に発生し,これまでよりもマグニチュードが1程度大きいものでした。これまで,周囲の大地震により,発生間隔が変化することは知られていました(Uchida et al., EPSL, 2005)が,その揺らぎは,最大でも1年程度でした。2011年の地震のよる大規模な余効すべりにより,この地震クラスター周囲でのプレート境界での準静的すべりがこれまで約50年では見られないほど加速され,発生間隔が極端に短くなったものと考えられます。地震の規模の違いについては,地震のサイクルにおけるアスペリティ内での非地震性すべりと地震性すべりの割合が,外部からの擾乱により変化したためと考えられますが,今後詳細に検討していく予定です。(文責:内田)

キネマティックPPP解析による地震時地殻変動の検出

キネマティックPPP(Precise Point Positioning, 精密単独測位法) 解析によって基準点に拠らない地震時地殻変動を計算しました.残念ながら東北大の多くのGPS観測点では地震後直ぐに停電で観測が停止してしまいましたが,青葉山(左図,2Hzサンプリング,最上部の観測点分布図でTU.AOB),金華山,江島観測点(中および右図,1Hzサンプリング,最上部の観測点分布図でTU.KNKおよびTU.EN3)では無停電電源装置を導入していたため,地震時変動をほぼ切れ目なく捉えることに成功しています.江島観測点では何らかの理由で本震発生後しばらくしてからデータが途切れてしまいましたが,最終的な変位に至る過程ではデータが回復しています.最終的な変位量は金華山で東に約5.3m, 南に約1.52m, 沈降が約1.22m,江島では約5.32m, 南に約1.74m, 沈降が約1.20mとなりました.特に江島での水平方向への変位量は5.59mに及び,国土地理院により報告されたGEONET 牡鹿 (0550) での水平変位量5.30mをさらに上回る変位が検出されたことになります.
 また金華山観測点における地震時変位のパーティクルモーションをアニメーションにしたものを以下に示します.地震発生後40秒前後と60秒前後で一旦変位が止まり,その後5mを超える変位が生じていることが良く分かります.これらは今回の地震が複数のアスペリティを連続的に破壊した経緯を示しているものと考えられます. http://www.aob.geophys.tohoku.ac.jp/~ohta/11mar11/knk_anim.gif
謝辞:江島観測点および金華山のデータ回収及び観測機器保守には宮城県の御協力をいただきました.また,江島観測点ではドコモエンジニアリング東北株式会社より衛星携帯電話の貸与をいただき,データ送信をしました.ここに記して深く感謝いたします.
(文責:太田)

2011年4月7日宮城県沖M7.4地震に伴う金華山における地震時永久変位

2011年4月7日に宮城県沖で発生したM7.4の地震により生じた地震時永久変位を東北大学金華山観測点にて検出しました.上図はIGS観測点臼田を基準点とした時のキネマティック基線解析の結果を示します.地震に伴う永久変位は西向きに10mm程度,隆起方向に50mm程度となりました.南北方向はほぼ変位無しという結果となっています.これに対して東北大学青葉山観測所では地震時永久変位は極めて小さく,この解析手法では検出が困難であることが分かります.
 こうした地殻変動場を説明するためのモデルとして,プレート境界における逆断層すべりによるものと,沈み込むスラブ内で発生した逆断層すべりの2種類を考えました.観測点が2点のみということもあり,断層パラメータ等には任意性がありますが,仮にプレート境界における逆断層すべりを仮定すると金華山観測点の西向き変位および隆起,さらに青葉山観測点の小さな変位を説明できません.これに対し,東傾斜のスラブ内地震(傾斜角37度)を仮定すると,金華山観測点の西向き変位,隆起,および青葉山観測点の小さな変位を満足することが可能です.スラブ内地震であった場合,西傾斜か東傾斜かの区別は現時点では難しいですが,沿岸部のデータ等を用いることにより,両者の区別が可能になるものと考えられます.(文責:太田,2011/04/08 16:00)

2011年4月7日23:32発生のMj7.4宮城沖地震および,周辺の地震活動

2011年4月7日23:32発生のMj7.4宮城沖地震および,周辺の地震活動(2002年6月〜2011年4月11日)の水平断面図(a)および断面図(b, c)を示します.気象庁一元化カタログおよび東北大による読み取り値にDD法(Double difference震源決定法[Waldhauser and Ellthesworth, 2000])を適用し,震源再決定を行いました.4月7日Mj7.4を黒☆,その余震活動を赤×,それ以前の地震活動を緑×で示します.断面図をみると,4月7日の地震およびその余震は,太平洋プレート内部において,東傾斜の断層面上で発生したことがわかります.また,地震活動から推定される4月7日の地震の破壊域は,Kita et al. [2010, Tectonophysics]により推定された太平洋プレート内における応力中立面(太平洋プレート表面より約22km)を超えず,Downdip compression(DC)場内にとどまり,Downdip tension場 (DE)場には至っていないことがわかります.
謝辞:本解析では,防災科研,気象庁,大学の定常地震観測点,および2011年東北地方太平洋沖地震合同観測グループにより設置された臨時観測点のデータを使用しています。 また,金華山観測点のデータ回収及び観測機器保守には宮城県の御協力をいただきました. 記して感謝いたします.
(文責:北,2011/04/21 19:00)

3/11からの東日本(特に東北地方)の内陸の地震活動について

気象庁一元化震源による3/11-4/8の深さ20kmより浅い地震の震央分布(黒丸),灰色の○は3/11以前の浅い地震の震央分布を示す.☆はM5以上の地震を示す.3/11以降の活動は3/11以前におよそ活動の高い領域およびその周辺に見られる.○の色はメカニズム解と余震分布から推定した断層面に対するクーロン応力変化の値を示す.Coulomb3.2(Lin and Stein, 2004; Toda et al., 2005)を使用した.いずれの断層に対しても,クーロン応力変化については正の値が推定されている.ここでは東北地方太平洋沖地震のすべり量分布としては,USGSの推定したものを使用した.(東北大学,2011/04/18作製)(Okada et al., 2011, in prep. for EPS)

2011/4/1秋田県北部の地震について得られた,DD法による再決定震源分布(-4/6):東北東ー西南西(左),北西ー南東方向(右)の断面図と震央分布図を示す.右上には防災科学技術研究所のAQUA-CMT解を示す.これらより東ないし南東方向に傾斜した余震の並びが断層面であると考えられる.(Okada et al., 2011, in prep. for EPS)(東北大学,2011/04/11作製)

2011/3/11以降に発生した福島県北部の地震について得られた,DD法による再決定震源分布(-4/6):東北東ー西南西(左),北北西ー南南東(右上)の断面図と震央分布図を示す.下には押し引きによるメカニズム解の例を示す.北北西ー南南東方向の余震の並びに対応する節面が主な断層面であると考えられる.(Okada et al., 2011, in prep. for EPS)(東北大学,2011/04/11作製)

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