2008年1月11日 岩手県釜石沖の地震(M4.7)

2008年1月11日 8時0分,岩手県釜石沖のプレート境界を震源とするMj4.7の地震が発生しました。この地震は、規模の大きな地震ではありませんが、あらかじめその規模および発生時期が予測されていたという点で大きな意味を持つ地震です。

岩手県釜石沖の地震活動について

岩手県釜石沖の深さ約50kmのプレート境界では,M4.9±0.1の地震が約5.5年間隔で非常に規則的に発生しています。このような規則正しい地震が起こる理由は,この地震の周辺のプレート境界でほぼ一定の速度でのゆっくりとしたすべりが進行しており,その中の1kmほどの大きさの固着域(ひっかかり)が周りのすべりに追いつこうと定期的にすべる(地震を起こす)ためと考えられています。今回起こった地震は,2001年11月以来,6.16年ぶりに発生した地震であり,Matsuzawa et al. (2002) が2009年2月までに発生すると予測していた期間内に発生しました。

図1.1926年-1998年に発生したM6以上の浅発地震の震央分布。(第145回地震予知連絡会資料より)

図2.1995年-1999年に発生した微小地震(h≦60km)の震央分布。矢印が釜石沖の地震活動を示します。(第145回地震予知連絡会資料より)

図3.釜石沖の地震活動の深さ分布。図2に示した領域AB内の地震の東西鉛直断面を示します。2008年1月11日の地震(M4.9)の位置を星印で表します。(第145回地震予知連絡会資料より)

図4.岩手県釜石沖地震クラスタのM-T(マグニチュード-時間)図.星印がM4.9前後の繰り返し地震と考えられる地震で,一番右のものが今回発生した地震を示します。今回の地震は、10個目の”釜石沖地震”となりました。プロットした地震の範囲(期間、領域)は、図の上に示しました。ただし、M4.9前後の地震以外については、1976年以降のみ示しています。

仙台市青葉山観測点における過去5回の釜石沖地震の波形の比較

図5.仙台市青葉山観測点(震央距離約160km)で観測された釜石沖地震の波形。上下動成分の波形を示します。過去5回の地震による波形はとてもよく似ています。これらの地震は共通の破壊域をもつ地震であると考えられます。

広帯域地震計で観測された1995, 2001, 2008年の波形の比較

図6.KGJ(遠野), DIT(大東), HMK(姫神)各観測点における,1995, 2001, 2008年の地震の波形(バントパスフィルター使用)を示します。波形の全体的な特徴は似ていますが,P波の部分を見ると,2001年,2008年の地震同士の方が波形の相似性がよりよく,それに対し,1995年の地震では,P波到着後約1秒後に,2001年,2008年の地震では見られない後続相が見られます。 1995年,2001年の地震のすべり域の広がりはほぼ重なる(Okada et al., 2003)ことから,釜石沖の地震の繰り返しは,ほぼ同じアスペリティの繰り返しすべりによるものであると考えられます。ただし,震源(破壊開始点)とすべり量分布のピークとの距離は1995年の地震の方が大きくなっています。観測波形の違いは震源(破壊開始点)に対するすべり量分布の違いを反映しているものと考えられますので,2008年の地震は2001年の地震により近いと考えられます。

2008年1月11日の地震およびその周辺の地震の震源分布(暫定版)

図7 2008年1月11日の地震(M4.7,赤丸)とその周辺の地震(黒丸,1995-2008年)の分布。左は平面図,右は東西断面図で,波形の相関を用いたDouble-difference法により決定しました。丸の大きさは,おおよその断層サイズ(応力降下量380barを仮定)を示し,その中心はモーメント開放の中心(すべりの重心)を示します。今回発生した地震は,1995年の地震(M5.0, 一番大きい丸)および 2001年の地震(M4.8, 二番目に大きい丸)とほぼ同じ位置で発生したことが分かります(1995年,2001年,2008年の地震のモーメント開放の中心は,直径66mの範囲に求まりました)。断面図を見ると,地震は,東下がりのプレート境界上と思われる面上(破線)に分布していることが分かります。

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