2020年 プレスリリース

グリーンランドの地下深くに隠されていた「熱い流れ」 ―北極域の火山活動や氷床底部融解の根源となるホットプルームを発見― [2020/12/25]

 グリーンランドとその周辺地域では様々な地球科学的活動が起きていますが、氷床上での観測の難しさから、地下構造を調べるための地震観測は長らく行われていませんでした。東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センターの豊国源知助教、修士学生の松野貴也氏(現:三菱ガス化学)、趙大鵬教授の研究グループは、11ヵ国共同での「グリーンランド氷床モニタリング観測網」に参加して氷床上に地震計を設置し、得られたデータの解析によって、グリーンランドとその周辺地域の地殻からマントル最深部までの3次元地下構造を明らかにしました。その結果、グリーンランド直下に、核-マントル境界からマントル遷移層まで上昇する熱い岩石の流れ「グリーンランドプルーム」を発見・命名しました。さらにそれが、大西洋中央海嶺に沿って分布する活火山や地熱地帯への熱の供給源であることを明らかにしました。また氷床が底部で大規模に融解している特異な地域の成因を突き止めました。

 本成果は、米科学誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に12月5日に二連の論文としてオンライン掲載されました。

東日本下に流動しないマントルを発見 -新たな海域地震観測網が明らかにした日本列島下の流動構造 – [2020/12/15]

 沈み込み帯でマントルの中に沈み込んでいる冷たく硬い海のプレートの動きは、表層地殻と沈み込むプレートの間にあたるマントル(マントルウエッジ)の温度が高いと、そこにゆっくりとした流動を生じさせます。この流動は、プレート境界の深部での地震活動、マグマの生成、流体の地球深部への運搬など日本列島下の様々な動きの原動力となっています。東北大学大学院理学研究科の内田直希准教授らの研究グループは、東京工業大学中島淳一教授,防災科学技術研究所浅野陽一主任研究員らとの共同研究により、同研究所の日本海溝海底地震津波観測網(S-net)が捉えた地震波形データを分析することで、太平洋下から北海道・東北地方沿岸部までのマントルウエッジ内では流動が生じていないことを明らかにしました。日本海側では流動が見られるという、陸上の地震観測にもとづく先行研究の結果とは対照的です。地表付近の温度の観測とシミュレーションによって予想されていたことではありますが、それを実測した初めての成果です。

 この研究成果は、学術雑誌Nature Commnicationsに2020年11月10日付けでオンライン公開されました。

無人機を用いた海底地殻変動の多点長期観測に成功 -高時間分解能での地震発生帯の現状把握に大きな進展- [2020/9/30]

 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)海域地震火山部門の飯沼卓史主任研究員らは、東北大学大学院理学研究科の日野亮太教授及び東北大学災害科学国際研究所の木戸元之教授らとともにGNSS-音響測距結合方式の海底地殻変動観測を無人海上観測機「ウェーブグライダー」によって実施するシステムを開発し、複数の観測点に沿って無人機を巡回させることにより、多くの地点での観測データを1ヶ月あまりの間に自動で取得することに成功しました。
 従来、有人船舶もしくは係留式のブイを用いることが不可欠だったGNSS-A観測では、その高い運用コストが観測体制の充実における課題となってきていましたが、無人機を用いた観測の実現により、1観測あたりのコストを1/10以下にまで削減が可能です。
 今後、無人機を活用することで海底地殻変動観測の頻度を高めることができれば、海溝型大地震の発生を繰り返す海域下での海陸プレート境界で蓄積された歪を解消する過程の実態が詳しく明らかとなり、巨大地震の発生可能性評価の信頼度を大幅に向上させることができると期待できます。

 本研究の一部は、JSPS科研費JP19H05596の助成を受けて実施されたものです。

東北地方太平洋沖地震の震源構造を解明 -プレート境界の岩石硬さの違いが地震発生をコントロール- [2020/3/6]

 東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センターの趙大鵬教授とYuanyuan Hua氏(中国地質大学 博士学生)、豊国源知助教(同センター)、および浙江大学のYixian Xu教授は、東北地方太平洋沖地震の震源域の3次元構造を調査し、この大地震の破壊は、深い側の硬い岩石と浅い側の柔らかい岩石との構造境界から開始したことを明らかにしました。浅い側の比較的に柔らかい岩石は太平洋プレートが沈み込む日本海溝にまで続いており、このような柔らかい岩石では破壊を止めることができず、海溝近傍まで大きなすべりが及び、大津波が発生したと考えられます。海溝まで大すべりが及んだ原因はこれまで謎であり、今回の研究結果がプレート境界域の巨大地震発生メカニズムを明らかにするための重要な手がかりになると考えられます。

 この研究成果は、2020年3月3日19時(日本時間)に英科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました