火山体構造探査

探査の概略

なぜ構造探査が必要?

 これまでの火山研究の結果、日々適切な観測を行っていればほとんどの火山で噴火前に異常現象を捉え得ることがわかってきました。しかし、異常な現象が観測されても「本当に噴火するのか?」「噴火するとすればどのような噴火か?」「どれくらいの噴火か?」などを正確に知ることはできません。それは、我々が火山の地下のどこにどれくらいマグマが蓄積しているか?マグマの状態などを知らないからなのです。つまり、火山の噴火予知の為には、火山の内部がどうなっているのか、出来るだけ正確に知る必要があるのです。

本当の震源はどこ?

 火山の周辺では、火山性の地震が起こります。噴火の前には発生回数が多くなったり、普段とは違う位置で地震が起きたりします。普段から正確な震源の位置を決定する事は非常に重要です。しかし、決定された震源には誤差が含まれています。それは、地中を伝わる地震波の速さは一定ではなく、場所により違っているからです。火山体やその周辺での詳細な地震波の速度分布をあらかじめ調べておくことで、震源決定の誤差を小さくする事が出来ます。

マグマ(熱水)溜まりは何処に?どんな形?大きさは?

 火山の内部にはマグマや熱水が存在すると考えられています。火山活動は、マグマや熱水の動きに起因します。従って、地下の何処にどんな形をしたどれくらいの大きさのマグマ溜まりが存在しているのかを知る事は、火山活動の理解や、将来の噴火予知の為に非常に重要です。マグマ溜まりや熱水溜まりでは、地震波速度が周囲に比べて低速度であったり、地震波の振幅が異常に減衰するといった特徴が見られると予想されます。

構造探査の方法

 火山体の構造探査は、人工地震を用いて行われています。探査対象とする火山に非常にたくさんの地震計を臨時に展開し、ダイナマイトを用いて人工地震を起こします。たくさんの点で人工地震による地震波が到達するのにどれだけ時間がかかったか?、どれくらいの振幅で到達したか?(どれだけ吸収されたか?)、どう散乱されたか?などを測定します。

構造探査の結果

 地震計に記録された波形記録は、震源から観測点までに伝播してきた領域の情報を持っています。そこで、複数点で人工地震を起こし、多数の点で観測する事により、地中の地震波に影響を与える構造(地震波速度構造・減衰構造・その他)を推定します。地震波速度が高速度である部分は、周囲と比べて固い岩石で出来ていると解釈する事が出来ますし、地震波速度が低速度で減衰の大きな領域は、マグマ溜まりや熱水溜まりであると解釈する事が出来ます。また、電磁気構造探査の結果と組み合わせる事により、より正確に火山体の構造を推定する事が出来ます。

実施火山

構造探査実施火山マップ

 下図はこれまで構造探査が行われた火山の位置と実施年である。1994年の霧島探査を皮切りに、1年1火山のペースで日本全国の火山の構造探査を行っている。

構造探査実施火山鳥瞰図

これまでの成果

成果論文一覧

  • 鍵山恒臣・他70名, 1995, 霧島火山群における人工地震探査 -観測および初動の読みとり-, 地震研究所彙報, 70, 33-60.
  • 松島健・井口正人・西村裕一・鍵山恒臣・渡辺秀文・三ヶ田均・及川純・山本圭吾・山口勝・増谷文男・奥田隆・筒井智樹・宮町宏樹, 1995, 1994年霧島火山群人工地震探査におけるGPSを用いた爆破点・観測点の位置測量, 地震研究所彙報, 70, 61-68.
  • 三ヶ田均・筒井智樹・森田裕一, 1995, 火山構造探査における波形ディジタル共通フォーマット,地震研究所彙報,70,69-79.
  • 筒井智樹・森田裕一・三ヶ田均, 1995, 火山構造探査グループの人工地震記録読みとり用標準ソフトについて,地震研究所彙報,
  • 前田実利・鶴我佳代子・及川純・松島健・馬越孝道・奥村貴史, 1995, 霧島火山群における人工地震の広帯域観測, 地震研究所彙報, 70, 91-102.
  • 筒井智樹・他68名, 1996, 人工地震探査による霧島火山群の地震波速度構造-はぎとり法による解析-, 火山, 41, 227-241.
  • 三ヶ田均, 1996, 霧島火山群構造探査データの反射法処理, 火山, 41, 159-170.
  • 森田裕一・浜口博之, 1996, 火山体構造探査のための高精度小型データロガーの開発, 火山, 41, 127-139.
  • 戸松稔貴・熊谷博之・國友孝洋・山岡耕春・渡辺了, 1997, 人工地震探査による霧島火山群の速度構造-波面法を用いた南北測線の初動走時データの解析-, 火山, 42, 159-163.
  • 西潔, 1997, 構造探査データを用いた霧島火山体浅部の3D速度構造, 火山, 42, 165-170.
  • 鍵山恒臣・歌田久司・三ヶ田均・筒井智樹・増谷文雄, 1997, 霧島火山群の構造とマグマ供給系, 火山, 42, S157-S166.
  • 松島健・他81名, 1997, 雲仙火山における人工地震探査-観測および初動の読みとり-, 地震研究所彙報, 72, 167-183.
  • Tomatsu,T., Kumagai, H., and Dawson, P., 2001, Tomographic inversion of P-wave velocity and Q structures beneath the Kirishima volcanic complex, southern Japan, based on finite difference calculations of complex traveltimes, Geophys. J. Int., 146, 781-794.
  • Nishi, K., 2001, A three dimensional robust seismic ray tracer for volcanic regions, Earth Planets Space, 53, 101-109.
  • 筒井智樹・須藤靖明, 2001, 人工地震で見た阿蘇中岳火口とその周辺の地下構造, 月刊地球, 23, 551-557.
  • 栗山都・松本聡・松島健・清水洋, 2001, 雲仙火山の地震波反射面, 月刊地球, 23, 535-539.
  • 森健彦・須藤靖明・吉川慎, 2001, ハイブリッド微動 -阿蘇火山静穏期に発生する火山性微動-, 月刊地球, 23, 558-564.
  • Nishi, K., 2002, Three-dimensional Seismic Velocity Structure beneath Unzen Volcano, Kyushu, Japan, Inferred by Tomography from Experimental Explosion data, 火山, 47, 227-242.
  • Tanaka, S, H. Hamaguchi, T. Nishimura, T. Yamawaki, S. Ueki,H. Nakamichi, T. Tsutsui, H. Miyamachi, N. Matsuwo, J. Oikawa,T. Ohminato, K. Miyaoka, S. Onizawa, T, Mori, K. Aizawa, 2002, Three-dimensional P-wave velocity structure of Iwate volcano, Japan from active seismic survey, Geophys. Res. Lett, 29(10), 10.1029/2002GL014983.
  • 田中聡・他69名, 2002, 岩手山における人工地震探査-観測および初動の読み取り-, 地震研究所彙報, 77, 1-25.
  • 内田直希・西村太志・吉本和生・中原恒・佐藤春夫・大竹政和・田中聡・浜口博之, 2002, 1998年岩手県内陸北部地震前後の地震波速度変化, 地震2, 55, 193-206.
  • 須藤靖明・他89名, 2002, 阿蘇火山における人工地震探査-観測及び初動の読みとり-, 地震研究所彙報, 77, 303-336.
  • 鬼澤真也・他57名,2002,有珠火山における人工地震探査-観測および初動の読み取り-,地震研究所彙報, 78, 121-143.
  • 鬼澤真也・大島弘光・青山裕・森済・前川徳光・鈴木敦生・筒井智樹・松尾のり道・及川純・大湊隆雄・山本圭吾・森健彦・平貴昭・宮町宏樹・岡田弘, 2002, 2001年有珠火山人工地震探査-3次元P波速度構造-, 月刊地球, 号外No39, 14-21.
  • 筒井智樹・須藤靖明・森健彦・勝俣啓・田中聡・及川純・戸松稔貴・松尾のり道・松島健・宮町宏樹・西潔・藤原善明・平松秀行, 2003, 阿蘇火山中央火口丘山体の三次元地震波速度構造, 火山, 48, 293-307.
  • Tsutsui, T. and Y. Sudo, 2004, Seismic reflectors beneath the central cones of Aso volcano, Kyushu, Japan, J.Volcanol. Geoterm. Res., 131, 33-58.
  • 及川純・鍵山恒臣・田中聡・宮町宏樹・筒井智樹・池田靖・潟山弘明・松尾のり道・西村裕一・山本圭吾・渡辺俊樹・大島弘光・山崎文人, 2004, 人工地震を用いた富士山における構造探査, 月刊地球, 号外 No48, 23-26.
  • Yamawaki, T., S. Tanaka, S. Ueki, H. Hamaguchi, H. Nakamichi, T. Nishimura, J. Oikawa, T. Tsutsui, K. Nishi, H. Shimizu, S. Yamaguchi, H. Miyamachi, H. Yamasato, and Y. Hayashi, 2004, Three-dimensional P-wave velocity structure of Bandai volcano in northeastern Japan inferred from active seismic survey, J. Volcanol. Geotherm. Res., 138, 267-282.