海溝型地震に関する調査研究

日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震

科学技術振興費 主要5分野の研究開発委託事業
新世紀重点研究創世プラン ~リサーチ・レボリューション2002~

研究目的

 千島海溝・日本海溝ではプレート境界型地震が数十年ごとに発生しますが、これらの地震の発生場所が近年波形解析によって特定されてきています。大地震を発生させる領域(アスペリティ)は定常状態において強く固着していると考えられており、プレート間固着強度が空間的に不均質であることを示しています。
 このようなプレート境界面におけるすべり特性の不均質性および時空間的変動は、プレート境界周辺の不均質構造および地震活動度の時空間変化として抽出できる可能性があります。したがって、プレート境界域周辺の高精度長期的地震活動度評価と3次元地震波速度構造不均質を調査することが必要と考えられます。
 東北大学地震・噴火予知研究観測センターでは、北海道大学・東京大学と共同で平成20年まで千島・日本海溝周辺において長期・広域の海底地震観測を行い、プレート境界及びその周辺域の3次元地殻不均質構造の推定を行います。

図.海底地震計

東南海・南海地震等海溝型地震に関する調査研究(平成16年度成果)

三陸はるか沖地震破壊域の地震波速度構造トモグラフィー

 三陸はるか沖地震の震源域周辺においては、多点の海底地震計を用いた余震観測のデータが使用可能であり、およそ20kmの空間分解能の地震波速度構造モデルを得ることができた。沈み込む海洋性地殻に対応する低速度層が深さ40km以深にまで連続して分布していることがイメージされた。海洋性地殻の上面は、深さ20kmまでの範囲でその上面の形状は人工地震探査により推定されているプレート境界面の深さ・形状と良い一致を示す。それ以深の部分においては、この面に沿って相似地震を含む多くの地震が集中していることがわかる。プレート境界より上盤側の島弧地殻のモホ面が盛り上がった構造をしている領域があり、それは北西-南東の走向をもつ帯状の分布を示す。このような島弧地殻が顕著な不均質構造をもつために、プレート境界面に沿った地震波速度は不規則な分布を示すが、こうした速度不均質のパターンと1994年の地震時すべりの大きかった領域(アスペリティ)の空間的な広がりとの間には対応関係があるようにみえる。

図1.(a)三陸はるか沖地震震源域のP波速度構造と(b)同領域の2次元速度構造探査(Ito et al., 2004)との比較。(b)赤星は解析に用いた震源のうち相似地震に対応する震源。赤実線は(b)のプレート境界面と対応。黄色実線内が解像度の高い領域。

図2.3次元速度構造の図1(b)の白実線に沿った断面。白実線内が解像度の高い領域、赤い実線は永井・他(2001)によるアスペリティ。灰丸は1994/4/1-1995/12/31の再決定した地震活動。緑星は相似地震に対応するもの。黄星は再決定した破壊開始点。

相似地震による十勝沖地震破壊域における準静的すべり量の時空間変化

 海底地震計データを用いた不均質速度構造推定手法に関する検討と並行して、相似地震活動の解析からアスペリティ周辺における準静的すべりの発展を推定する手法についても検討を進めた。対象としたのは三陸沖北部の東側の海域であり、2003年十勝沖地震の発生後、その震源域周辺において多くの相似地震の活動がみられた。そこで、1993年7月~2005年2月8日の期間を対象として、北海道大学、東北大学、弘前大学の微小地震観測網によるM2.5以上の地震の波形データを用い、十勝沖地震前後での相似地震活動の時空間的な変化を求めることにした。相似地震の同定は、震央間距離が40km以内のすべての地震の組み合わせについて、同じ観測点の波形の比較を行うことによった。相似地震と判定する基準は、2つ以上の観測点でP波、S波を含む40秒間の波形について、2〜8Hz のコヒーレンスの平均が0.95以上のものとし、同一の地震を共有する組み合わせは、同じ相似地震グループに属するものとした。
 相似地震の分布(図3)は、千島海溝沿いでは、日本海溝沿いに比べ、海溝近くでの活動が少ない傾向が見られた。また、2003年十勝沖地震や2004年11月29日の釧路沖地震のアスペリティを避けて分布する傾向が見られた。相似地震の積算すべりから求められたすべりレートは、2003年十勝沖地震前について、襟裳岬から南西の東北日本弧沿いの深部(深さ50km程度)では5~10cm/yrと比較的大きいのに対し、十勝沖~釧路沖にかけては、全域でおおよそ5cm/yr以下と小さめに推定された(図4)。これはこの期間にこの地域でのプレート間の固着が強かったことを示していると考えられる。相似地震から推定された2003年十勝沖地震後の余効すべりはそのアスペリティの南部や東部で大きく、GPSデータを用いた推定結果と比較すると、それより滑り量はやや小さいものの、分布パターンはほぼ一致する。

図3.(a)北海道南東沖および(b)釧路沖の相似地震分布。相似地震グループの重心の位置を橙色の丸で示す。コンターは、 2003年十勝沖地震(M8.0)、 2004年11月29日M7.1の地震、2004年12月6日M6.9の地震のすべり量分布(Yamanaka and Kikuchi, 2003;山中, 2004)。

図4.(a)1993年7月~2005年2月8日および(b)2003年1月1日~2005年2月8日の期間における相似地震解析に基づくプレート間の積算すべり。縦棒は2003年十勝沖地震および2004年11月29日(M7.1)の地震の発生時を示す。ウインドウ10では、2003年十勝沖地震の2日前に1つの相似地震が発生している。