プレート境界地震の発生様式

概要

 プレート境界において、過去の大地震の震源域が現在は固着していることをGPS観測により明らかにし、また、まったく同じ場所で規則的に小さな地震が繰り返し発生している事例(小繰り返し地震;相似地震)を微小地震観測から多数発見しました。これらの研究成果は、古記録の解析を行った東大地震研の成果ともあわせ、「アスペリティ(普段は固着していて地震時に大きくすべる領域)の位置は不変」であるとするアスペリティ・モデルが正しい事を示す明確な証拠となりました。
 このように、プレート境界型地震の発生が空間的にも時間的に決してランダムではないことが示されたことは、現在、地震調査研究推進本部で行われている大地震発生の長期評価に根拠を与えるものです。さらにアスペリティのまわりの安定すべり(ゆっくりとしたすべり)をモニターすれば、アスペリティにどの程度応力が集中し、歪エネルギーが蓄積されているのかをモニターできることになりますので、長期予測の高度化のみならず短期予測にも役立てられると期待されます。

“アスペリティ”で説明されるプレート境界の地震発生様式

 右図は、東北日本に沈み込むプレートを模式的に示しています。プレート境界(プレートの表面)には大小さまざまな大きさのアスペリティが存在していると考えられます。これらのアスペリティでは、その周りの安定すべり域でのゆっくりとしたすべりにより応力が集中し、やがてそれが壊れることによって地震が発生することになります。小さなアスペリティは小さな地震、大きなアスペリティは大きな地震を繰り返し引き起こしますが、地震時に壊れるアスペリティの組み合わせは必ずしも毎回同一ではないこともわかってきました。

岩手県釜石沖で見つかった”繰り返し地震”

 岩手県釜石沖の深さ約50kmのプレート境界で、マグニチュードが4.8±0.1、平均間隔が5.35±0.53年のきわめて規則的な地震活動を見出しました(上図)。これらの地震を仙台で観測すると、どれもそっくりな波形をしています(左下図)。震源域(地震時に破壊した領域)の直径は1.5km程度であり、1995年と2001年の地震はすべり域がほぼ重なっていることも、地震波形の解析から明らかにしました(右下図)。 このような特徴的な地震活動は、安定すべり域に囲まれた小さなアスペリティの繰り返しすべりによると解釈することができます。1995年の次の活動は遅くとも2001年中であろうと1999年の時点で予測していましたが、2001年11月13日16時45分に予測通りの規模の地震が予測通りの場所で発生しました。

GPSで推定された東北日本の地殻変動とプレート境界の固着状況

 1997年~2001年の国土地理院および東北大学のGPS連続観測によって推定された水平変動速度を左図に示します。山形県温海町の観測点(星印)を基準にすると、太平洋岸が西北西方向に相対的に動いている事がわかります。右図では、左図に示した水平変動速度から推定されたプレート境界上のすべり欠損レート(プレート間の固着の強さに対応)分布をコンター(等高線)で示します。単位はcm/年です。宮城県沖や青森県東方沖、十勝沖などでプレート間の固着が強い様子がわかります。実際、十勝沖では2003年9月26日にM8.0の巨大地震が発生しました。

小繰り返し地震で捉えられたプレート境界のゆっくりすべり

 上記で述べた小繰り返し地震の分布を右図の左側に橙色丸で示します。小繰り返し地震の発生は、海溝とプレート境界型地震の西縁(黒太線)の間に限られることがわかります。右側の図では、小繰り返し地震の活動から推定されたゆっくりとしたすべりのレート(カラー)とGPSデータから推定された、プレート境界のすべり欠損レートを比較して示しています(期間:1997-2001年)。プレート境界型地震の西縁(黒太線)付近に高いすべりレートが見られます。GPSデータから固着が弱いと推定されている場所(すべり欠損レートが小さい場所)で小繰り返し地震データから推定されたすべりレートも高くなっています。このように、GPSと小繰り返し地震のデータから、プレート境界のすべりの時空間発展が明らかになりつつあります。