岩手県釜石沖の繰り返し地震 (2013年03月13日更新)
   
岩手県釜石沖の繰り返し地震活動

 岩手県釜石沖の深さ約50kmのプレート境界では,M4.9±0.1の地震が約5.5年間隔で非常に規則的に発生しています  (地震学会なゐふる第31号もご参照ください)。  このような規則正しい地震が起こる理由は,この地震の周辺のプレート境界で ほぼ一定の速度でのゆっくりとしたすべりが進行しており,その中の1kmほどの大きさの  固着域(ひっかかり)が周りのすべりに追いつこうと定期的にすべる(地震を起こす)ためと考えられています。

   この地震は,深く,マグニチュードもそれほど大きくないので,被害を起こすような地震ではありません。  しかし,このような比較的シンプルで分かりやすい地震の発生過程を理解することができれば,  大きな地震の発生予測にも役立つかもしれません。(2007年1月掲載)

 その後2011年にM9の東北地方太平洋沖地震が発生し,下に示すように繰り返し地震の発生間隔にも大きな影響がありました。  短くなった発生間隔はこの地震の周囲のゆっくりすべりが速くなっていることを示していると考えられます。(2013年3月追記)

   

クラスタ内の地震活動 (2013年03月13日まで)

下図では,M4.9±0.1の地震クラスタ内の地震のM-T図を示します。 最近では,2013年3月13日にM5.0の地震が発生しました。 M9の東北地方太平洋沖地震後,地震の間隔が極端に小さくなるとともに,マグニチュードが一時的に大きくなりました。(2013年3月13日掲載)

 
 図.1956年から2013年3月13日のクラスタ内の地震のM-T図。領域は図中右上に表示。

2011年東北地方太平洋沖地震以降の活動

M9の東北地方太平洋沖地震後,地震の間隔一旦短くなった発生間隔が次第に伸びてきています。またマグニチュードも元のものに近くなってきました。(2013年3月13日掲載)

 
 図.2011年1月1日から2013年3月13日のクラスタ内の地震のM-T図。領域は図中右上に表示。領域内のM4.7以上の地震を赤星で示している。

クラスタ内の地震数の推移

 この地震を含む地震クラスタでは,大きな地震(M4.8)の前に,小さな地震が増えるという  非常興味深い活動をしています(下図参照)。(2007年1月15日掲載) 

 
 図.1975年から2006年のクラスタ内の地震の積算個数。星はM4.9±0.1の地震。

クラスタ内の小地震の活動

M4.9±0.1の地震クラスタ内の地震は,最大地震を除くと主に4つの場所に分かれます(下図bのA-D)。 下図(c)では,4つの場所の地震をシンボルを変えて示しています. M4.9の地震の断層の中央に近いグループBの地震(緑色四角)はサイクルの後半に多いこと, グループA(赤三角)の後にグループB(緑四角)が起きることがよくあることは興味深い事実です。 2つの地震サイクルにわたるクラスタ内の小地震の活動についてUchida et al., GJI, 2012では詳しく調べました。(2013年3月13日掲載)

 
 図.(a)震源分布(平面図).それぞれの丸は地震の断層の大きさを示しており, A-Cの3つの場所で多くの地震が重なり合って起こっていることが分かります。(b)震源分布(断面図) (c)グループA-Dでシンボルを変えたM-T図。  

小繰り返し地震の積算すべりから推定した釜石沖地震クラスタ周辺地域のプレート間すべり(2007年5月31日まで)

下図は,釜石沖の地震クラスタの周辺地域に存在する小繰り返し地震について、 5つの矩形領域で、平均の積算すべりの平均を求めました。この積算すべりはプレート境界での ゆっくりすべりの推移を示したものと解釈できます。 これまで発生間隔が最短であった1995年(図で横線で示す)の前には,海溝に近い場所で群発的な地震活動があり, 小繰り返し地震の積算すべりからもゆっくりすべりの加速があったことが示されました(Uchida et al. EPSL,2005,155-165)。 その後2001年の地震は逆にこれまでで一番長い発生間隔で起きました(これはすべりレートの減速があったためと考えています)。 最近は,釜石沖の海溝近くにおいて、顕著な地震活動やすべりの加速はその後みられておらず、 次回の釜石沖の地震は平均的な繰り返し間隔で発生するものと考えています。(2007年8月10日掲載)

 
 図.(上)小繰り返し地震(橙色丸)とM5以上の地震(黄色い星)の分布。 (下)上図の領域A-E内の小繰り返し地震の積算すべりを平均したもの.

地震の発生間隔と今後の予測(2007年6月22日時点)

下図は,釜石沖のM4.9±0.1の地震の繰り返し間隔を示したものです。 それぞれ、左に示した日に発生した地震のその前の地震からの時間を棒の長さで示しています。 およそ5年半程度で繰り返し地震が発生していることがわかりますが、その前後1年程度のばらつきがあります。 上で示したようにそのゆらぎ原因の1つは、一時的なプレート境界でのすべり速度の変化によるものと考えられます。 そのような変化の影響を受けたと考えられる1962年、1968年、1995年、2001年(Uchida et al., 2005)を青色で示しました。 これらを除いた橙色の発生間隔のみを見ると、そのゆらぎはさらに小さく、この4つのみの発生間隔とそのゆらぎから計算すると 次回の釜石沖の地震は今年の12月まで(影をつけた範囲)に発生する可能性が高いと考えています。(2007年8月10日掲載) →実際には少し遅れて2008年1月11日に発生しました。(2013年3月13日追記)

 
 図.釜石沖のM4.9±0.1の地震の繰り返し間隔.一番上の白い棒は2007年6月22日時点での前回の地震からの経過時間.

謝辞:
東京大学地震研究所の五十嵐俊博博士には,2001年以前のグループ分けした震源リストをいただきました。 また,解析には,一部気象庁による一元化震源を使わせていただきました。