地震予知連絡会トピックス「低周波微動・低周波地震

4.東北地方地殻深部に発生する低周波微小地震と地殻変形過程

東北大学 岡田知己 

 

 内陸で発生する大地震の発生様式について理解するためには,島弧地殻の変形様式や,活断層での応力蓄積過程を知ることが重要である.また,沈み込むプレートから供給される高温の流体の分布や挙動は地殻変形過程や地震発生に顕著に影響を与えることが考えられる.そのような視点から,本報告では,東北地方地殻深部で発生する低周波微小地震および地殻変形過程について,これまで得られた知見を紹介する.

東北地方内陸部に発生する浅発地震は,その深さの下限を約15kmとしており,その深さにおいて地殻を構成する岩石の変形特性が脆性的から塑性的に変化すると考えられている.一方,脊梁部のモホ面近傍においては,深さ20〜40kmに微小地震が発生する1).これらの微小地震の観測波形は通常の浅発地震とくらべて低周波成分が卓越している(第1図).また,低周波微動の観測例も,報告されている.

発生する領域は火山近傍であり,さらに地震波速度トモグラフィーで見られる上部マントルから地殻下部にかけて広がるVp/Vsの大きな領域の上端付近に分布する (第2,3図) 2).Vp/Vsの大きな領域は部分溶融域に対応すると考えられることから,低周波微小地震は深部でのマグマの固結により生じたH2O等の流体の移動によるものであると推測される.低周波微小地震の発震機構については,P波の押し引き分布や実体波の振幅あるいは振幅比等を用いてこれまでいくつかの地震について調べられており,流体の移動を示唆するような非ダブルカップル成分を含む可能性が指摘されている (第4図) 3)

一方,稠密GPS観測により東北地方脊梁部における歪集中域の分布が得られている (第2図)4).この歪集中域は,浅部微小地震活動が活発な領域に対応する.また,前述のVp/Vsの大きな領域の分布や深部低周波微小地震の分布ともよく対応している.このことから,深部に高温のメルトやH2O等の流体が存在していると,そこでは塑性変形ないし粘弾性変形が卓越するため,この領域で歪・応力が集中し,微小地震活動も活発となると推察され,島弧地殻変形過程において,深部からの高温の流体の移動が重要な役割を果たしているものと考えられる.

参考文献

1) Hasegawa and Yamamoto (1994),Tectonophys., 223, 233-252.

2) Nakajima et al. (2001),J. Geophys. Res., 106, 21843-21857.

3) 岡田・長谷川(2000),火山,45, 47-63.

4) 佐藤・他(2002),地震,55,181-191.

 

 

第1図      通常の浅発地震(上)と低周波微小地震の波形例(下).

Fig. 1    Examples of observed waveforms. (Top) Normal shallow earthquake.  (Bottom) Deep low-frequency microearthquake (DLF).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2図   東北地方に発生する地殻深部低周波微小地震の震央分布(黒丸; 岡田・長谷川,2000).右図は深さ40kmにおけるVp/Vs比分布 (Nakajima et al., 2001) と,左図はGPS観測による2001年―1997年の水平歪分布 (佐藤・他,2002)と,重ねて示す.

Fig 2.   Epicenter distribution of deep low-frequency microearthquakes in northeastern Japan. (Right figure) dVp/dVs distribution at a depth of 40km. (Left figure) E ast-west componet strain rate in the period from 1997 to 2001 by GPS observation.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3図   鳴子火山付近(38.8度)の東西断面図.赤丸は深部低周波微小地震(岡田・長谷川,2000),黒丸は浅部微小地震,赤線はS波反射面(堀・他,1999)を示す.背景はdVp(左上),dVs(右上),Vp/Vs比(左下)分布(Nakajima et al., 2001)を示す.

Fig. 3   East-west cross section at latitude of 38.8. Red circles and black dots denotes DLFs and normal microearthquakes, respectively. Red bold lines denote S-wave reflectors.  We also show spatial distribution of dVp in the left-top figure, dVs in the right-top figure, and dVp/dVs in the left-bottom figure.

 

 

 

第4図   宮城県鬼首周辺で発生した低周波微小地震のモーメントテンソル解(岡田・長谷川,2000).下半球投影で示す.

Fig. 4   Moment tensor solutions of DLFs in the Onikobe area, Miyagi Prefecture.  We show these tensors by lower hemisphere projection.