メスバウアスペクトルの解析プログラムの作製

青山学院大学 理工学部 電気電子工学科

木戸元之

平成3年3月

要旨

 本研究室では,磁性研究の一手段としてメスバウア効果測定を 行ってきたが,線源駆動装置の動きがsin波であり, 等加速度運動(三角波)でないため, 一定時間ごとに計数するMCAで得られる吸収ピークの位置は, V=0 [mm/s]のチャンネルから離れるに従って大きくずれてしまい, 定量的な測定ができなかった.
 1982年の卒業研究において,線源をsin波, 三角波の両方で駆動できる装置が作製されているが, 三角波駆動の方では精度上問題があり, 結局現在ではsin波駆動の方が用いられている.
 そこで本研究では定量的な議論をできるようにすることを目標に, 以下のプログラムを作製した.

  1. alpha-Fe (enriched Fe57) 標準試料の吸収ピークを用いて, ピーク位置の補正量を決めるプログラム.
  2. 各試料ごとに縦方向(強度)の補正量を決めるプログラム.
  3. (1)(2)の結果に従い目的試料の吸収ピークの位置を補正し, それをFittingするプログラム.
  4. (3)でFittingしたピークを成分ごとに色分けしてプロッターで 書かせるプログラム.
 以上のプログラムを用いてメスバウアスペクトルを測定解析した結果, 試料ごとに文献値に非常に近い各パラメータ値が得られ, 補正方法が正しいことが分かった.また Fittingプログラムではかなり複雑なピーク (最高6本組を5組)の分離に成功し, 実際の研究に役立つことができた.

1.序論

 メスバウア効果は1958年にMossbauerによって発見されて以来, Feを含む化合物の超微細構造の研究に用いられてきた. メスバウア効果により3つのパラメータIS(アイソマーシフト), MF(内部磁場),QS(四重極分裂)を知ることができ, Fe原子の価数,原子核位置での内部磁場, スピンの向きが推定できるなどその応用価値は大きい.
 本研究室でも各種磁性研究の一手段として メスバウア効果測定が利用されてきたが, 駆動装置に起因する吸収ピークのずれのため, 定性的にしか議論できなかった. そこで本研究では,適当な方法でずれを補正することにより, 定量的な研究をできるようにすることを目的とした.
 実際にはピークの強度方向(縦)と位置方向(横)との2つの補正を施した. いずれも補正後の値を補正前の値の関数として表わす変換式を導出し, 各種プログラムの中で使用することにより補正を行った. その結果をもとにFittingをして, 必要な3つのパラメータおよびピークの強度比を求めた.
 結果として,文献値のFittingパラメータとよく一致し, 縦横共に補正が精度良くできたことがわかった. これらの処理をコンピュータプログラムで行うことにより, 定量的な研究ができるようになった. その応用として他の研究班の試料の研究で有効に利用することができた.


目次
0: 要旨

1: 序論 -------------------------------------  1

2: メスバウア効果の原理 ---------------------  2
       2.1 メスバウア効果の概要
       2.2 アイソマーシフト
       2.3 内部磁場
       2.4 四重極分裂
       2.5 吸収ピークの位置

3: 実験方法 --------------------------------- 13
       3.1 メスバウア効果測定装置
       3.2 ピーク位置の補正方法
       3.3 ピーク強度の補正方法
       3.4 位置補正量決定プログラム
       3.5 強度補正量決定プログラム
       3.6 フィッティングプログラム
       3.7 プロッター出力プログラム
       3.8 その他のプログラム

4: 実験結果 --------------------------------- 25
       4.1 補正結果
       4.2 フィッティング結果

5: 考察 ------------------------------------- 32
       5.1 補正の問題点
       5.2 補正量の時間変化
       5.3 フィッティングの妥当性

   参考文献 --------------------------------- 41

   謝辞 ------------------------------------- 42

   付録 ------------------------------------- 43
         1 メスバウア効果測定解析手順概要 --- 44
         2 各プログラムの動かし方 ----------- 47
         3 プログラムリスト ----------------- 54 - 87