海洋プレートの進化に関する研究の動向

木戸元之・木下肇

東京大学地震研究所 〒113 東京都文京区弥生 1-1-1

Abstract.  海洋底拡大説の台頭と,海洋底に関する地質学及び地 球物理学的データ(地殻年代,地殻熱流量,水深,堆積 物の厚さ,重力等)の集積に伴い,これらを定量的に説 明するための海洋プレート進化のモデリングが,1960年 代後半から 1970年代前半にかけて盛んに行われた.基本 的な観測事実として,水深(堆積物を剥いで補正した基 盤の深さ)と地殻熱流量は,中央海嶺からの距離,すな わちプレート年代の平方根にそれぞれほぼ比例,反比例 する.また十分に古い (水深: 80 Ma〜,地殻熱流量: 120 Ma〜) 海洋底では,それぞれの値は指数関数的に一定値 に漸近する (flattening) 傾向にある.これらのデータにつ いて,適当な境界条件の下で,プレート生成後の冷却あ るいは成長としてモデリングする試みが行われてきた.
 1970年代後半になると研究の関心は,flattening の原 因,水深データをプレート年代の関数として表わした曲 線(水深年代曲線)の地域性,あるいは水深の水深年代 曲線からのずれ(水深異常)に寄せられた.観測データ もよりグローバルかつ高密度になり,水深異常分布図が 詳細に作られた.これを重力異常と比較したり,その原 因をホットスポット上を通過する時の再加熱によるプレ ートの若返り,アセノスフェア内の小規模対流,あるい は大規模なマントル対流に求めたりする研究も出てき た.またモデルの妥当性を吟味する,プレートの厚さの 年代変化が,様々な研究分野のデータから検討された. これらのデータは必ずしも統一的な結果を示してはいな い.
 本論文では,これまでのプレートのモデルを紹介し, 次にプレートの厚さを見積もったデータを列挙する.そ して最近の研究の焦点である flattening の原因をめぐる 様々な主張を取り上げ,この問題を解決するには何が必 要かを考える.


地震, 47, 469-488, 1994.
日本地震学会