局在化アドミッタンスで見るリソスフェア

木戸元之

神戸大学内海域機能教育研究センター

Abstract. 重力と地形との波数領域での振幅比であるアドミッタンスは, 特定の領域の平均的な弾性プレートの曲げ剛性率を表しているが, ウェーブレットに代表される局在化波長解析を当てはめることにより, 空間に対して連続に求めることができる. また,スケーリングが容易であるので, 全球規模の解析から地域的な問題まで,その応用範囲は広い.

1.はじめに

 リソスフェアを弾性プレートで近似した場合,その曲げ剛性率は リソスフェアの厚さを知るうえで重要な情報となる. これを重力と地形のデータから求める研究が数多くなされて来た. 最も直接的な方法は,海洋プレート上の海山を点荷重とみなし, その荷重によるプレートの変形から曲げ剛性率を求めるものである. また,海洋プレートの沈み込みに伴う海溝近傍のプレートの曲率も, 海溝海側のアウターライズとして観測され,プレートの曲げ剛性率 を直接的に表している. 一方,点荷重では近似できない一般的な地形による荷重の場合, 調和関数で表した重力-地形応答関数が用いられる. これは,調和関数で表現される地形荷重による重力の応答が 波長の関数で表され,線形足し合わせができるという性質に 基づいたものである.本稿では,主に調和荷重を用いた解析を扱う. これらの手法は古典的であるにもかかわらず,ほとんどの参考書で 統一的な解説は省かれることが多かった.しかし,最近になり, この問題を深くほり下げて解説した洋書が出版された(Watts, 2001).
 アドミッタンスの調和解析は波数領域で行われるため, 基本的に位置の情報は持たず,解析領域全体の平均値が得られる. そのため,これまでの研究では,興味のある対象領域を複数選び, それぞれの領域での平均のリソスフェア像を推定し, 比較する研究が主であった.一方,近年さまざまな分野で 用いられるようになったウェーブレット解析を利用して,局在化した アドミッタンスを求める試みも始まった(Simons et al., 1997).


月刊地球, 25 No.7, 530-534, 2003.
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