2015年9月16日 チリ中部沖の地震(M8.3)

 日本時間の9月17日午前7時54分(現地時間9月16日19時54分)にチリ中部のIllapel沖合で巨大地震(M8.3,米国地質調査所(USGS)による)が発生しました。USGSによる地震波の解析結果(参考URL)では、震源域はチリ海溝沿いに250 kmほどの範囲にわたり、震源断層となったプレート境界で数メートルの地震時すべりが起こったと推定されました。この大きくすべった領域が10 km以浅とかなり浅かったために、チリ中部沿岸域で4 mを超す大津波が生じたものと考えられます。また、今回の地震の震源域は2010年に発生したMaule地震(M8.8)のよりも北に位置します(図1)。

 同じ領域では過去に1880年(M不明)と1943年(M8.1)の巨大地震が発生しています(図1)。1950年代以前の地震については、観測点数の問題で、震源域の推定誤差はかなり大きく、ましてや地震観測データのない歴史地震の震源域の推定には大きな不確定性があると考えられますが、これらのデータを見る限り、今回の地震の震源域では、約70年の間隔で巨大地震が繰り返し発生してきたことになります。1943年の地震に伴い、震源域の沿岸で4–5m、日本沿岸でも30 cmの高さの津波が観測されており(Lomnitz, 1971; Hatori, 1968)、今回の津波も同規模で観測されています。今回の地震に先立ち、Illapelを含むチリ中部沿岸域に整備されたGPS地殻変動観測網では、ナスカプレートの収束方向への大きな変位速度が観測されており、今回の震源に対応する領域における強いプレート間固着が推定されています(Métois et al., 2012)。

 Illapel地震の震源域のさらに北では、1922年の地震(M8.4)を最後に海溝沿い500 kmにわたって巨大地震が起きていません(図1)。1922年の地震時には、震源域近くの沿岸で9 m、日本沿岸でも70 cmの津波が到達した記録があります(Lomnitz, 1971; Hatori, 1968)。再来間隔が約100年ですでに93年経過していることから、この領域においても同程度の規模の地震を起こせるだけのすべり欠損が蓄積していると想定され、巨大地震発生の切迫度が高まっていると考えられます。

illapel

図1.左図は、チリ中南部で発生した主な地震の震源域(Bilek et al., (2010)に加筆)。黄色丸は今回の地震に伴うM2.5以上の余震分布(USGSカタログより)。右図は、チリ中南部沖の大地震の発生履歴(Beck et al. (1998)に加筆)。線分の長さは断層すべりの起こった範囲に相当。

引用文献

  • Beck, S., S. Barrientos, E. Kausel, and M. Reyes (1998), Source characteristics of historic earthquakes along the central Chile subduction zone, J. South Am. Earth Sci., 11, 2, 115–129.
  • Bilek, S. L. (2010), Invited review paper: Seismicity along the South American subduction zone: Review of large earthquakes, tsunamis, and subduction zone complexity, Tectonophys., 495, 2–14.
  • Hatori, T. (1968), Study of Distant tsunamis along the coast of Japan, Bull. Earthquake Res. Inst., 34, 129–136.
  • Lomnitz, C. (1971), Grandes Terremotos y Tsunamis en Chile Durantel el Period 1535–1955, Geofisica Panamericana 1(1), 151–178.
  • Metois, M., A. Socquet, and C. Vigny (2012), Interseismic coupling, segmentation and mechanical behavior of the central Chile subduction zone, J. Geophys. Res., 117, B03406, doi:10.1029/2011JB008736.