2011年3月9日 三陸沖の地震(M7.3)

2011年3月9日11時45分に、三陸沖を震源とするMj7.3、最大震度5弱の地震が発生しました。この地震はプレート境界で発生したものと考えられ、1981年に発生したM7.0の地震の近傍で発生しました。

震源位置とその周囲の地震活動

今回発生した地震のセントロイド位置(赤色の星) とその周囲の最近の地震活動(1975年以降のM7以上の地震,黒色の星)を示します。コンターは、大地震のすべり域(Yamanaka and Kikuchi [2004], 山中, [2003, 2005, 地震学ノート]、小さい丸は、小繰り返し地震グループの位置を示します。小繰り返し地震の丸の色はすべりレートを示しています。今回の地震は、1981年M7.0の地震のごく近傍で発生しました。プレート境界でのすべりの加速により活発化すると考えられる小繰り返し地震は、2008年2月ころから、この地震の宮城県はるか沖~茨城県沖の海溝近傍でやや活発でしたが最近は落ち着いてきていました。なお、図中の逆三角は震源域周辺で現在観測中の海底地殻変動観測点を示します。今回の地震のセントロイド位置は防災科学技術研究所によるもの、そのほかの地震の震源位置は気象庁によるものを使用させていただきました。(文責:内田)

震源位置と2005年宮城県沖地震の余効すべりの関係

2005年8月16日の宮城県沖の地震(M7.2)の余効すべりの分布と、2011年3月9日の地震(M7.3)の本震及び余震、2011年2月16日に発生した地震の分布図。2005年の地震の余効すべりが及んでいない領域に今回の地震の余震および1981年の地震のアスペリティがある。余効すべりは陸上GPS観測点及び海底地殻変動観測点で得られた変位時系列データを元に推定した、2005年12月から2007年12月までのすべりの積算値を示す。本震・余震(3月9日16:30までに発生したもの)、2月16日の地震は東北大の自動処理システムによる。1984年から2010年半ばまでの小繰り返し地震の震央は気象庁一元化震源、プロットしたメカニズム解は防災科学技術研究所のAQUA CMTを使用させていただきました。(文責:飯沼)

RTK-GPS解析による地震時永久変位の検出

東北大学が地殻変動研究のために設置しているGPS観測点のうち、リアルタイム解析が可能な観測点において、本地震の永久変位及び地震波動を捉えました。秋田観測点を基準としたRTK-GPS解析時系列(江島、金華山、三陸観測点)の時系列及び観測点分布を示します。時系列は上から東西、南北、上下成分で1秒毎の座標時系列です。横軸の数値は2011年3月9日の11時台の分を示します。本震発生と共に20秒程度の長周期変動及び地震時永久変位が、特に江島観測点の東西成分で顕著に確認できます。江島観測点と金華山観測点では東向きにそれぞれ約15mmおよび約8 mm程度の永久変位が生じています(上図)。これらの変位量は、今回の地震を起こした断層が1981年のアスペリティが再活動したものとするとMw7.0、その東隣に位置しているとするとMw7.2の規模を仮定することで説明できます(下図)。(文責:太田、飯沼、三浦)

解析諸元:
解析ソフトウェア:RTKLIB 2.4.0. (Takasu, 2010)
衛星暦:IGS速報暦(予報暦)
固定点:東北大学秋田観測所
座標時系列中の色の種別:緑色は波数不確定性が整数値として推定されたもの、橙色は実数値として推定されたもの。緑色で示された時系列の方が精度が良い。

沖合における津波波形

東北大学・東京大学による釜石沖ケーブルシステムの海底水圧計(TM1、TM2)で本震(Mj7.2)発生後約15分(ほぼ正午)で約10cmの津波(図中↓)が観測されました。この津波は、海洋研究開発機構による釧路沖ケーブルシステムの海底水圧計(KPG1、KPG2、KCTD)でも観測されました。KPG1、KCTDでは本震発生後約30分、KPG2では本震発生後約40分で、いずれも約1cmの津波と認識できます。TM1、TM2では、本震の翌朝発生した余震(Mj6.6)に伴う1cm未満の津波も観測されました(最下図)。時系列には、潮汐補正および1時間をカットオフとするハイパスフィルタを施しました。(文責:稲津)

震源域周辺の過去のプレート境界すべりの時空間変化

小繰り返し地震の積算すべりによる、プレート境界の準静的すべり(ゆっくりすべり)のモニタリング結果。色が各年のすべりレートを示します。星は70km以浅の地震の震央を示し、赤色はM6以上、黄色はM5以上のものを示します。黒星は今回の地震のセントロイドを示します。これまで、2008年に福島県・茨城県のはるか沖合(海溝近傍)を中心とする準静的すべりの加速があり、その後、宮城県の沖合まで達したことが推定されていましたが、2009年、2010年はその加速状態がしだいにおさまる傾向にありました。(文責:内田)

GEONET観測点における、太平洋プレート沈み込み方向の水平変位勾配の時空間変化。横軸は、変位勾配を計算するために設定した帯状の各領域(東北日本ではN105°E方向,北海道ではN120°E方向に設定)の中心線と東経140度線との交点の緯度、縦軸は時間を示します。上段は過去5年間の平均変位速度場から、下段は過去1年間の平均変位速度場から、それぞれ水平変位勾配を計算したものです。変位勾配の値は、沖側でのプレート間固着が強いとき、大きな負値(暖色系)を、固着が弱いときもしくは準静的すべりを起こしているとき、0に近い値もしくは正値(寒色系)となります。横軸上で39.0度付近が今回の地震の震源域を通るプロファイルに対応します。これより南側では、小繰り返し地震の解析からも求まっている準静的すべりに対応する変化が見られますが、39.0度付近には影響が及んでいません。また、福島県沖から茨城県沖にかけての領域も、2010年には以前と同じ状態に戻っています。(文責:飯沼)

震源分布図

再検測による震央分布図(3/9 11:45-22:10、赤丸)。赤星は本震の震央。余震は本震の北側に多く分布します。青四角は1933年以降に発生したM6.5以上(深さ70km以浅)の震央。(文責:中島)

1981年(M7.0)と2011年(M7.3)の地震の位置関係

S-P時間を用いたグリッドサーチにより、1981年M7.0と2011年M7.3の地震の震源を決定しました。震源はプレート境界に拘束して計算を行いました。解析に用いた観測点は9点であり、観測点配置がほぼ同じになるように選択しました。1981年と2011年とを比較すると、1981年の方が約50km北西に位置することがわかります。共通の観測点である東北大の遠野観測点でのS-P時間は1981年の方が約5.7秒短いこととも調和的です。(文責:中島)

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