2008年7月24日 岩手県沿岸北部の地震(M6.8)

2008年7月24日0時26分に、岩手県沿岸北部を震源とするMj6.8、最大震度6強の地震が発生しました。この地震は太平洋プレート内部で発生した地震と考えられます。

周辺地域で過去に発生したスラブ内地震の空間分布からみた今回の地震

解説概要

2008年7月24日の地震は、沈み込む海洋性プレート(太平洋プレート)内部に発達する二重深発地震面・下面の部分で発生した地震です。今回の地震は,過去に定常的な下面地震の地震活動があった地域に発生しております。
また、過去の当センターによる研究により、東北地方下の太平洋プレート内における二重深発地震面・上面地震の活動と、二重深発地震面・上面下面間(=面間)の活動と、下面の地震活動の空間分布は、対応関係があることが指摘されていました。今回の地震の場所は,まさにその対応関係が見られる場所で発生しています。

解説本文

Double-Difference震源決定法により再決定された地震(2002年6月-2006年12月) に今回の地震の本震、余震(東北大の自動処理の震源)を重ねて比較検討を行った結果、今回の地震は二重深発地震面・下面中で発生した地震であることがわかります(図1、特に図2の断面図)。
太平洋プレート表面の深さが45-65kmの付近(東北地方の海岸線付近)の下面の地震活動の空間分布と発生個数のグラフをみると(図3の(c)、(f))、今回の地震は、周辺と比べて元々地震活動が多い場所で発生していることがわかります。
また、その直上では過去に中規模のスラブ内地震を起こした場所があり(図3(a)中の地震群A、B。そのうちBは、1987年の岩泉でのM6.7地震の余震域)、面間地震も発生していることがわかります(図3(b)、(e))。今回の地震が発生した場所以外をみても、下面地震がみられるところの直上は、面間地震、上面地震がみられる傾向があることがわかります。
下面地震が活発なところの直上にある、上面の地震が集中している場所6箇所にはアルファベットを振っています(図3(a)内のA-F)。そのうち、近傍のものと以下のように組み分けをして、大きく見てA-B組、C-D組、E-F組の3ヶ所の下で面間地震、下面地震が活発とみてみます。すると、今回の下面の地震が発生した場所は、下面地震が若干少ない場所で発生しており、今回地震が起きたことにより、下面・面間・上面地震の対応関係がよりはっきりしたといえます。(本稿の内容は,北ほか(2007年地震学会秋季大会発表)の一部を抜粋しております)
(補足ですが、図3(a)の地震群C、Dも、震源群Bと同様、大きな過去のスラブ内地震(2003年のM7.1宮城地震)の余震域にあたります。図5を参考のこと.)
図4に本稿におけるスラブ内地震の区分について説明した図を示します。また,東北地域下の太平洋プレート内において過去30年以内に発生した中規模・大規模のスラブ内地震を図5に上面・下面地震に分類して示します。

参考論文・発表

  • Kita, S., T. Okada, J. Nakajima, T. Matsuzawa, N. Uchida, A. Hasegawa, Precise hypocenter distribution and earthquake generating and stress in and around the upper-plane seismic belt in the subducting Pacific slab beneath NE Japan, アメリカ地球物理学連合(AGU)2007年秋季大会発表, 発表番号DI51A-0290, San Francisco, 2007.
  • 北 佐枝子, 岡田知己, 中島淳一, 松澤 暢, 内田直希, 長谷川昭, S.H.Kirby, Deatailed spatial distribution of seismicity and the characteristics of the focal mechanisms in the Pacific plate beneath NE Japan, 日本地震学会2007年秋季大会発表, 2007.
  • 菅ノ又淳一・岡田知己・長谷川昭・迫田浩司・Stephen H. Kirby, Double-Difference Location法による東北日本弧下のやや深発地震の震源再決定,第59巻,地震2,P.1-18,2006.

図1 スラブ内地震の空間分布。(a)二重深発地震面上面の地震の空間分布。(b)二重深発地震面上面・下面間の地震のもの。(c)下面の地震のもの。地震の分類は図4に示します。図中☆は、7月24日0:26分の本震の位置(東北大学自動震源決定による)を載せました。細線は太平洋プレート表面の等深度線(Zhao et al.,1997による)

図2 上図中の赤線下の断面(幅20km断面).赤十は二重深発地震面上面の地震,青十は下面の地震,緑十は面間の地震(上面,下面,面間地震の説明は図4を参照のこと)。黒線は,Zhao et al. 1997による変換波により推定された太平洋プレート表面。黄色★は、東北大学相似地震カタログによる震源。赤☆は、今回の地震の本震と余震(注:自動処理によりもとまった震源で、本震発生から6時間以内のものすべて。暫定的なものです!)。黒い太い線は陸部分。赤▲は火山の位置。

図3 今回の地震(図中☆)周辺域の太平洋プレート内部で発生したスラブ内地震活動の空間分布と、その発生個数の空間分布をグラフにしたもの.上面地震(うちスラブマントル内のみ)の空間分布(a)と地震発生個数の頻度分布(b)、面間地震の空間分布(b)と発生個数の頻度分布(e)、下面地震の空間分布(c)と発生個数の頻度分布(f)。太平洋プレート表面深さ45-65kmの領域下に過去5年間に発生した、M0以上のものスラブ内地震を解析対象としました。

図4 本研究によるスラブ内地震の分類。二重深発地震面・上面の地震はプレート表面より下でかつ0-14km以内にある地震、下面の地震は同様にプレート表面から23km以上離れているものを呼んでいます。また近年、二重深発地震面の二面の間(プレート表面から14-23km)においても地震活動が報告されてきており、その地震のことを面間地震と呼びます。

図5 過去30年以内に東北地方で発生した中規模・大規模のスラブ内地震の空間分布。上面地震、下面地震をそれぞれ赤★,青★で示しています。ほぼ南北方向に見える灰色の実線・波線は、Zhao et al.(1997)による太平洋プレート表面の深さの等深度線を示しています。★の傍には、その地震の発生年、深さ、マグニチュード(注:東北大学によるマグニチュード。気象庁マグニチュードとは大きさが多少異なる)を示しました。

(文責:D3 北)

遠地地震波形による地震時すべり分布と余震分布

Yagi et al. の方法にて、IRISによる遠地波形データを使用し、地震時すべり分布をもとめました。
この暫定結果からは、すべり域は、おおむね本震の震源より約15km程度、主に南側に広がっており、すべり量はおよそ1mとなります。余震分布も本震の震源より主に南側に広がっており,すべり域の広がりは余震分布の広がりと同様であるように見えます。

断層面はCMT解の2つの面の両方について仮定しましたが、波形からはどちらがよいか明瞭な違いは確認できていません。
なお、この地震は始まりの部分(初期破壊)と主要な部分(主破壊)とで異なるメカニズム解(断層形状)をもつようです。この解析では断層面を一枚に仮定しているため、始まりの部分を説明できていないことにご注意ください。
(文責:岡田)

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