震源域周辺のプレート間すべりの時空間発展

GPSデータによる地震時すべり分布[2005/10/25 更新]

震源域周辺に展開されている東北大学のGPS連続観測網では,震源に最も近い金華山観測点(KNK0)で地震時に約5cmの東向きの変位が見られました。GPSデータのインバージョンにより推定された地震時すべり分布(図3)は,波形インバージョンによる推定結果に比べすべり領域は広いですが、本震震源の北西側に最大すべり量が推定されるという結果は共通しています。

図3.黒矢印は東北大学のGPS連続観測網において地震に伴って観測された水平地殻変動ベクトル,青矢印はYabuki and Matsu’ura (1992) のインバージョン法により推定されたプレート境界面上のすべり分布を示します。白矢印は推定されたすべり分布から計算された各観測点における変位ベクトルである.黄色の星印は本震の震央 (「本震・余震の分布と地震活動」図1参照)です。推定された最大すべりは約50cm,積算モーメントは6.5E+19Nmであり,Mw7.2に相当します。

GPSデータによる余効すべり分布[2005/10/24 掲載]

地震直後の8月17日から10月1日の期間の国土地理院のGPS連続観測データにおいてわずかな余効変動が見られました。この期間の各GPS観測点の変位速度を一定と仮定して推定したうえで,日数をかけて得られた地震後46日間の変位を黒矢印で示します。震源域に近い領域で震源方向を向いた変位ベクトルが見られる一方で,震源域から遠い観測点では,ほとんど変位していません。変位ベクトルのパターンは地震時の変位場に良く似ているが,震源域の南側でも比較的大きな変位を示す観測点が多いです。これらのデータをもとに,Yabuki and Matsu’ura [1992]のインバージョン法ですべり分布を推定した結果を黒いコンターとカラースケールで示しました。得られた余効すべりは,本震のすべり域(紫のコンター)の南隣に隣接して分布しています。一方で1978年の宮城県沖地震で大きなすべりを生じた領域 (青のコンター,Yamanaka and Kikuchi[2004]による)は,本震時も地震後もすべっていないように見えます。

相似地震データによる準静的すべり解析[2006/9/22 更新]

相似地震により震源域周辺のプレート間すべりの時空間発展を推定しました。その結果,本震後に震源周辺のいくつかの場所で準静的すべりが加速した(余効すべりが発生した)ことが明らかになりました(図1領域D, E, G, I, K)。本震前後の約半年のすべりレートの空間分布を比べた図2をみると,本震後の余効すべりの発生がはっきりと分かります。(文責 内田直希)

図1. (a) 小繰り返し地震の分布(橙色丸).コンターは山中(2003),Yamanaka and Kikuchi (2004) ,Yaginuma et al. (2006)による,大地震のすべり量分布.星印は2005年1月~2006年7月のM6以上の地震.黒太線はIgarashi et al. (2001)による低角逆断層型地震の発生域の西縁。
(b)(a)の矩形領域A~Nにおける平均の小繰り返し地震グループの平均の積算すべり。期間は2004年1月1日~2006年7月31日.図の一番上には金華山GPS観測点での東西成分の位置変化も示します。縦の棒は主な地震の発生時を示します。

図2. 相似地震の積算すべりから求めた準静的すべり速度の分布.
(a)2004年1月1日~2005年8月16日の地震前まで,及び(b)2005年8月16日の地震直後~2006年7月31日まで。すべり速度は0.3°×0.3°のウインドウごとに推定した値をカラーパターンで示します。赤,黄の星印はそれぞれ,M6以上,M5以上M6未満の地震の震央,橙色のコンターは,2005年8月16日の地震のすべり量分布(Yaginuma et al., 2006),黒いコンターはGPSデータの解析による2005年8月16日~11月30日の期間における余効すべり分布(コンター間隔は3cm, 三浦・他, 2006) を示します。黒太線は低角逆断層型地震発生域の西縁(Igarashi et al., 2001)。